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2.恋しくて、恋しくて(10)
「獅子倉くん借りてもいい?」
一宮先輩が、東海林に聞く。
「あ、はいっ」
にっこり笑う一宮先輩に見惚れていた東海林が、顔を真っ赤にしながら、どーぞ、どーぞ、とか言ってるし。俺は『両手に花』状態で、教室の中を案内して回る。
「……助かりました」
俺は苦笑いしながら、二人と一緒に歩く。
「ん?なんかあったの?」
不思議そうな顔をする朝倉先輩に、クスリと笑う一宮先輩。
「あの子……獅子倉くんのファンかなにか?」
「んなわけ、ないですって」
慌てて否定すると、
「でも……ずっとこっち見てるけど?」
そう言われるて、チラッと見ると、東海林と視線が合った気がした。
「いやいやいや……俺というよりも、お二人じゃないですか?」
「やっぱり、そう思う?」
ウキウキで返事をしてくるのは、朝倉先輩。
「思います!」
……そうであってほしい。うん。
「先輩たちは、鴻上さんのところのお化け屋敷、行ってきたんですか?」
「行ってきたよ~」
「鴻上先輩、がんばってたよ」
クスクス笑ってる二人。
「そうなんですか……どう頑張ってたのか、見てみたかったなぁ」
「見てくれば?」
一宮先輩が、不思議そうに俺の顔を見る。
「いや、準備に全然手伝えなかったから、今回は店番に徹しようかと」
苦笑いすると、一宮先輩が、教室の中を見回す。
「なるほど。ほとんどの子たちは、見て回ってるわけね」
すると、大きく引き伸ばした、猫がお腹を見せて大の字で寝ている画像の前で、ケラケラ笑ってる朝倉先輩の襟を引っ張った。
「な、なによ?」
「遼子、獅子倉くんと交代」
「え?」
「え?」
思わず、俺も朝倉先輩も、一宮先輩を凝視した。
「いや、いやいやいや」
「なんで、私なのよ」
二人で一宮先輩に詰め寄った。
「文句言わない。遼子は、あとでご褒美あげるから」
ニヤリと笑う一宮先輩に、朝倉先輩は頬を染めて下を向く。
……どんなご褒美かは、考えてはいけない気がする。
「獅子倉くん、忘れてるかもしれないけど、鴻上先輩は3年で今年が最後の文化祭なんだよ?ちゃんと、頑張ってる姿、見に行かないでどうするのよ」
「……」
……ここのところ、ずっと一緒にいるから、忘れてた。
受験勉強してる姿を見てたのに。
「一緒に行ってくれそうな子は……いても、鴻上先輩が嫌がるか」
入口であいかわらず、俺たちのほうをキラキラした目で見ている東海林を見て、クスクス笑う一宮先輩。
「じゃあ、私と行こうか?」
「えええっ!?」
「なんでよぉ。」
朝倉先輩が思い切り拗ねた顔になってる。
「あ、あの、いいですよ?俺、一人でも行けますし。てか、俺一人のほうがよくないですか?」
二人の仲がこじれると、絶対、俺にも被害が及ぶ気がするんですけど。
「いやいや、最近の獅子倉くんは……一人にすると、狙われそうだから」
ニヤ~っと、なんだかイヤラシイ笑い方をする一宮先輩が・・・怖すぎる。
「それに、遼子……」
朝倉先輩の耳元で、何か小さく囁いている一宮先輩は……なんだか楽しそうで。一方の朝倉先輩は、いよいよ真っ赤な完熟トマト状態。
「……わかった。待ってる……から、早く帰ってきてね?」
俺の目の前で、起きてるイチャイチャモードは……とても目の毒な気がするんですが……。
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