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2.恋しくて、恋しくて(12)

 黒いカーテンで、完全に外の明かりはシャットアウトされてるせいか、入口に入ってすぐは、目の前が完全な暗闇。明るいところから急に入ったせいもあるだろうけど。暗すぎて、前に進むのも、躊躇していると、チラッと後ろから明かりが漏れた。 「ほら、早く前に行けよ。」 そう言って声をかけてきたのは、柊翔だった。 「え?あの、いいんですか?」 「なにが?」 「え、客引き?」 「……オオカミ男に任せた」  少しだけ、むすっとした声で答えると、俺の右手の二の腕あたりを掴んで、ゆっくりと前に進みだした。  教室の中のはずなのに、見事なほどの作り込みで、本当にお化け屋敷に来たみたい。  どこから借りてきたのか、『ひゅ~どろどろどろ~』っていう定番の効果音も流れてるし。そして、あちこちから、『きゃぁぁ』だの、『うぉっ!?』だの、叫び声が聞こえてきて、その声のたびに、びくついてる俺。  すると、顔のあたりを、ぬめっとした冷たいものがかすめていった。 「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?な、なんか触ったっ!?」  思わず、柊翔の腕に抱き付いた。  真っ暗な中で、柊翔の『クスッ』と笑っているのが聞こえた。  俺が腕にしがみついていたのにその腕をはがすと、ギュッと肩を抱いたかと思ったら、羽織っていたマントで、俺を包み込む。 「し、柊翔?」 「シーッ!」  目の前に、柊翔の顔。ちょっとだけ、拗ねたような顔をしてる。 「……ヤキモチ妬かせたお仕置き」  優しい声が聞こえたと同時に、唇が重なる。 「な、なにするんですかっ」  暗がりの中とはいえ、焦ってしまう俺は、コソコソと文句を言う。 「大丈夫、見えないし」  などと、軽く言うけど、俺たちも周り見えないよ?嬉しくないわけじゃないけど。 「今日は、帰りまで会えないかと思ってた」 「……一宮先輩が、柊翔は最後の文化祭だからって」 「……そっか」  柊翔の優しい声とともに、優しいキスが落ちてくる。 「さっさと、出るか」  俺の手を力強く握って、柊翔は力強く暗闇の中を歩きだした。  今の俺には、この暗闇がまるで現在の自分の状況みたいに思える。それでも、柊翔がいれば、その暗闇の中も歩いていける、そう思えた。
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