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2.恋しくて、恋しくて(13)
文化祭が終わると、期末テストが待っている。期末が終われば、クリスマス。
……まぁ、まだだいぶ気が早いけど。
『獅子倉くん、忙しい時に悪いんだけど、今度、時間作ってくれないかな』
宇野さんからの留守電が残っていたのは、期末テスト目前のある日のこと。いつものように柊翔との帰りの電車の中で、スマホの着信に気づかずに話しこんでいた。
地元に着くと、柊翔は予備校へ、俺は近所のスーパーへ夕飯の買い出しに。今日は、柊翔がうちに泊まってくれる日だから、ちゃんとご飯を作ろうと思っていた。
宇野さんの留守電を聞いたのは、家についてスマホをバックの中から取り出してからだった。
「……親父のこと……かな」
宇野さんからの電話なんて、今の俺には、それしか思い浮かばなかった。そう思うと、自然と眉間にシワを寄せてしまう。
どんな話になるのか、今の俺には想像もつかないけど、とりあえず、宇野さんの話を聞いてみないことには、らちが明かない。夕飯の準備を始める前に、宇野さんに電話をした。
……忙しいのか、留守電に変わってしまう。
まぁ、俺も電車の中では気づかなかったし。とりあえず、『テストが間近なので、たいがい真っ直ぐに家に帰ってます。帰ってきてからでもよければ』と、留守電に残した。
折り返し電話があるかもしれない、と思い、テーブルの上に出したまま、料理を始めた。
この部屋は、亮平たちが住んでた部屋よりも、少し狭いけれど、俺が一人で生活する分には、十分すぎる広さだった。窓からは少し離れた土手が見えて、川が意外に近いところに流れてたことに気づかされる。カーテンをひきながら、夕闇に浮かぶ家々の灯りに、少しだけ一人でいることの寂しさに気づかされる。
もう少ししたら、柊翔が来てくれる。
そう思って、拳をキュッと握る。
キッチンに戻ろうとした時、スマホの着信音が、一人の部屋に響いた。表示された名前は、案の定、宇野さん。
「はい」
『こんばんわ。今、話しても大丈夫かな?』
「こんばんわ。大丈夫ですよ」
そう言いながら、ソファに座る。
『予想はしてるだろうけど、獅子倉くんのお父さんの話です』
「……はい」
『一度、ちゃんと話をしたほうがいいとは思うんだ』
「……そうですね」
ただこのまま、亮平の世話になりっぱなし、というわけにもいかない。それは、俺だってわかってる。親父とのことも、はっきりさせないといけないことも。
『獅子倉くんだけで、お父さんと会わせることはないから、安心して』
「え?」
『第三者に入ってもらった方が、お互い冷静に話もできるだろうし』
「でも」
『……お父さんに、言いくるめられない自信はある?』
言いくるめられる……確かに頭に血がのぼってしまったら、俺は、ちゃんと、思ってることが伝えられなくなるかもしれない。でも、それは、『言いくるめられる』とは違うと思うし。親父は……そういう人じゃないと思う。
『それに、お父さんのほうも、一人で来る確証はないよ』
「……それは……あの女も来るかもしれないと?」
『……今のお父さんが、どっちを大事に思ってるかにも、よるけどね』
宇野さんは、残酷だ。
その言葉に、俺は、親父にとって、もう、そんなにたいして重い存在ではなくなっているのかもしれない、と、改めて気づかされた。実際、最近は、親父からの連絡は、まったくなかった。
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