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2.恋しくて、恋しくて(14)
宇野さんは、とりあえず日程を調整したら連絡する、とだけ言って電話をきった。
親父と、何を話せばいいというのだろう。
ソファの背に頭を乗せて目をつぶる。思い浮かんでくるのは、結局は、怒りの言葉しかなくて、それじゃ、何も変わらないんだって、自分でもわかってる。
今は、俺は未成年で、自分の力じゃ、何もできないという現実。
あんな親父でも、結局は、あいつが俺の保護者。その事実が、俺の逃げ道を塞いでいる気がする。
ピー、という炊飯器の米が炊きあがった音で、夕飯の準備が途中だったことを思い出す。時計を見ると、もう少ししたら柊翔が来る時間になる。慌てて、キッチンに戻って、準備を始めた。
しばらくするとインターフォンが鳴り、画面を見ると、ニッと笑ってる柊翔の顔が映し出される。それを見ただけで、ホッとしている俺。
ロビーの自動ドアを開けると、俺はテーブルの上に料理を並べ始めた。まもなく、玄関のチャイムも鳴るから、玄関を開けにパタパタと歩く。
「よぉっ……あっ!?どうした?」
少し疲れてそうに見える柊翔なのに、俺は、つい、我慢できなくて抱き付いてしまった。柊翔はポンポンと背中を優しく叩く。
「……要、腹減った。」
優しい声が耳元をかすめる。
「……うん」
俺は名残惜し気に身体を離すと、キッチンに戻ると残りの料理を手にとった。
「おおお。要、どんどんレパートリー増えてる?」
バックとブレザーをソファに置くと、テーブルの上の料理をのぞきこむ柊翔。なんだか子供みたいに、ワクワクした顔なのが、なんだかカワイイって思ってしまった。
「レシピサイト見ながらだから……」
「いやいや、それでも作れるだけ、大したもんだよ」
いそいそと席に座り、「いただきます」と言うと、料理に箸をつけだした。たいしたもんじゃなくても、美味しそうに俺の料理を食べてくれる。その姿に喜びを感じながら、俺も一緒に箸を進めた。
俺よりも先に、ペロリと食べきってくれた柊翔の笑顔を見て、幸せな気分になったのもつかの間、宇野さんのことを思い出す。
もし、親父と話をするんだったら、柊翔も一緒にいてほしい。
「あのね、柊翔」
さっさと食器を片づけている柊翔の背中に声をかける。
「うん?」
柊翔の隣に立ったけれど、顔を見ることができなくて、スポンジに洗剤をつけて泡立て始める。
「どうした?」
ジッと俺を見つめてる視線を感じて、ようやく重い口を開いた。
「……今度、親父と会うことになりそうなんです」
柊翔の息をのむ音が聞こえる。
「宇野さんが、調整してくれるみたいなんだけど……」
俺は大きく深呼吸をすると、思い切って柊翔に言ってみた。
「柊翔も、一緒にいてくれませんか?」
「当たり前だろ」
……優しい声に、安堵のため息がでる。
柊翔なら、そう言ってくれる。
そう思っていても、少しの不安が俺の肩にのしかかってたみたいで、肩に力が入ってたみたい。柊翔の答えを聞いて、肩がストンと落ちた。
「宇野さんから連絡きたら、教えろよ」
「はい」
「……どんな話になっても……俺は、要の味方だからな」
「……はい」
洗い物で手が泡だらけになっている俺の肩を、ギュッと抱きしめる。
「あ、洗い物、途中ですからっ」
「いいじゃん」
そう言って、額にキスを落とす。
「じ、邪魔するんだったら、お風呂、やってきてくださいっ!」
「は~い」
真っ赤な顔の俺を残して、楽しそうに離れていく。
……柊翔がいるだけで、これから先の嫌なことが、少しだけ軽くなった気がする。
「ありがと」
俺は小さくつぶやいた。
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