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2.恋しくて、恋しくて(18)

 ホテルから真っ直ぐ俺の部屋に戻って来た、俺たち二人。玄関のドアが閉まった瞬間、俺の中で張り詰めていた何かが、一気に壊れた。 「うぅぅっ……」  溢れる涙と嗚咽を止めることもできずに、その場にしゃがみこむ。そんな俺の背中を、柊翔はギュッと抱きしめてくれた。俺が落ち着くまで、そのまま柊翔の温もりは背中から離れずにいてくれた。 「……し、柊翔、ありがとう……」  しゃがんだままの体制のせいで、足が痺れてきた。ゆっくりと立ち上がろうとした時、バランスを崩して、前に倒れそうになる。 「うわっ」 「あ、あぶなっ!」  柊翔の腕が、俺の身体を抱え込んだ。 「ごめん……なんか、いつも柊翔に助けられてばかりだな……」  自然と苦笑いが浮かんでしまう。 「気にすんな……それより……キツイこと言ってごめん。」 「……ううん……いつの間に亮平と話してたの?」  突然、亮平の声が聞こえてきた時は、びっくりした。 「……おじさんと会う話が出た頃かな」 「そうだったんだ」  二人がいつの間にか、俺の知らないところで話をしてたことに驚いた。宇野さんたちが絡んできてたのだから、亮平も知っているとは思ってはいた。だけど、わざわざ本人が関わってくるとまでは考えていなかった。  リビングのソファに座って、ようやく落ち着いた気がする。 「要は、これから、どうしたい?」  隣に座った柊翔が、俺の顔をのぞきこみながら静かに問いかけた。  ――俺は、どうしたいのか。 「……とりあえず、高校は卒業したい」 「当然だ」 「できれば……もう、親父の世話にはなりたくない」 「……」 「となると、就職かなぁ……」  うちの高校は進学校だから、あまり就職の実績がないはず。そこから仕事を探すのは……なかなか厳しいかもしれない。  柊翔は難しそうな顔をして、俺の顔を見続ける。 「と、とりあえずは、卒業することだけ考えます。それと……バイト始めようかなって」 「生活費はなんとかしてもらえるだろ。あんだけ言えば」 「でも……」 「たぶん、宇野さんが、なんとかしてくれるだろうし」 「俺、ほんと、自分じゃ何もできないんですね……」  俺が、まだ子供だから。自分の力で、一人で、生きていくこともできない。 「大人になったら、返せばいいさ」 「……」 「だから、返せるような大人にならないとな」  俺の頭を撫でると、優しいキスが落ちてきた。柊翔の瞳の中には、また泣きそうになっている俺が映る。  力強い柊翔の腕の中に抱きしめられながら、俺は母のことを思い出す。  病院で入院してた時、一人で苦しい時間を過ごした時、母はどんなにあの男を想っていたことだろう。寂しい時に、誰かがそばにいてくれる、それだけでも安心できるのに。母は、あの男を、どんなに恋しく思っていたことだろう、と。  母が亡くなったのは、病気のせいだけではなかったような気がしてきた。  恋しくて、恋しくて、その想いが、魂すらも削ってしまったんじゃないか、そんな気がしてならなかった。

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