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3.二人だけのクリスマス?(3)

 そんな話をしてから、しばらくして、宇野さんから新しい部屋について、連絡があった。学校帰りに地元の駅で僕を捕まえると、いつも乗っている黒い車の後部座席に乗り込んだ。  宇野さんが連れてきてくれた場所は、少し古い二階建のアパート。間取りは二DKということで、一人暮らしでは十分すぎる広さで、ちょっとした家族でも住めそうだと思った。 「俺、ワンルームとかでもいいと思ってたんですけど」  申し訳なさそうに言うと、 「ここは、昔、私がお世話になったアパートなんだよ」  懐かしそうにアパートを見上げながら話し始めた。 「私が結婚したばかりの頃に住んでたんだよ。ここの大家さんも顔見知りだし、ちょっと古いんで、家賃も抑え目にしてくれるっていうからさ」  今まで借りていたマンションから、少し奥に行ったところにあるせいか、駅から少し歩くことも、家賃が抑えられている理由の一つだろう。 「私が住んでいたのは、ここの二階の奥の部屋だよ」  俺の住む部屋は1階の角部屋で、目の前の階段を上った先に、宇野さんが住んでいた部屋があるらしい。部屋に入ると、カーテンのない窓から、微かに残っている紅い夕日が差し込んできている。 「陽が落ちるのが早くなったなぁ」  そう言いながら玄関をあがっていく宇野さんの後をついていく。畳の部屋が二つと、ちょっと広めな台所。バストイレが付いていて、ホッとする。 「もう築何十年だろう。私が住んでた時と比べると、キッチンやバス・トイレはリフォームしてるみたいだけどね」  何もないがらんとした部屋で、俺と宇野さんは、しゃがみこんだ。 「君が一人で生活することを考えると、本当はちゃんとしたセキュリティのあるマンションに住んでもらいたいんだけど。そうなると、君の言う、『分相応』というのとは異なってしまうからねぇ」  困った顔で、俺のことを見つめる宇野さんに、気を使わせてしまっていることに、恐縮するしかない。 「いえ、いいんです。俺、こういう部屋で十分です。それに、家からも近いから、引越も楽そうじゃないですか。」 「君って子は……」  優しく微笑む宇野さんを見て、こういう人が父親だったらよかったのに、と、考えて、胸の奥の方が、少しだけチクリとする。 「え、えと、いつここに引越したらいいんでしょうか。」  すでに部屋の中は薄暗くなってきている。宇野さんが立ちあがったので、俺もつられて立ち上がった。 「そうだね。遅くても年内とは思ってたけど……その顔は、すぐにでも引っ越したい顔だね」 「え……わかりますか」 「あははは。今度の週末にでもどうかな。ご実家のほうの荷物は、私たちの方で手配しておくから、今のマンションの荷物だけ、獅子倉くんはまとめておいてください」 「……すみません」 「いや、君のお父さんと、もう一度話をしておかないとね」  そう言ってる宇野さんの横顔は、すごく厳しい顔をしていた。この人を敵にまわすのは、嫌だな、と思った瞬間だった。

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