47 / 95
3.二人だけのクリスマス?(5)
バイトは、思ってたよりもあっさり決まった。
途中下車なんて、ほとんどしないから、こんな店があるとは知らなかった。駅から少し歩いたところにある一軒家風に見えるステーキハウス。オーナー夫妻が、思ったよりもほんわかした感じの人たちだったのと、ここの娘さんが、なんと高校の先輩だったというのに驚いた。
「ちょうど、バイトに来てる高校三年の子が、受験勉強に集中したいっていうからね。」
目の前にいるのは、オーナーの奥さんで、まるぽちゃの感じが柊翔のお母さんと似ていて、なんだかホッとする。
平日のディナータイムが始まって間もないこの時間では、まだ、それほどお客さんが入ってるわけでもなくて、バックヤードにいたバイトの先輩たちに紹介された。
「よろしくお願いします」
ペコリと挨拶をすると、三人の先輩がそれぞれに自己紹介をしてくれた。
「山瀬です。バイトでは一番長いかな。わかんないことあったら言ってね」
髪を一つにまとめて、『できる女』って感じの山瀬さんは、かっこいいお姉さん。
「佐藤です。よろしくな」
俺よりも小柄な佐藤さんは、ふわふわした天然パーマのせいもあって可愛らしい感じなのに、話をしてみると、すごく男前。
「……関口です。君と入れ替わりで辞めるんだけど。短い間だけど、よろしく」
関口さんは、なんだか、ひょろっとした暗い感じの人で、もしかして勉強疲れなのか、顔色も悪そうだった。
三人と少しだけ話をした後、山瀬さんが、マンツーマンで仕事のやり方を説明してくれることになって、キッチンのほうに向かおうとした時。
「あ、その子が新しい子?」
後ろから、ドキッとする声がした。
その声は、慌てて振り向くくらい、柊翔の声にそっくりで、目の前にいるその人の姿を見て、余計にドキリとした。
「こんばんわ」
当然、柊翔なわけがなくて。でも、あと十年もしたら、こんな感じなのかな、と思う様な、そんな人が目の前に立っていた。
「おーい?」
俺は、びっくりして固まってたらしい。
「あ、はいっ。こ、こんばんわっ」
ちょっと挙動不審になってる俺を、その人は面白そうに見て……柊翔みたいに頭をなでた。
「なんだか、かわいい感じの子だねぇ、山瀬」
そう言いながら、俺の隣に立つ山瀬さんに言う。その横顔に、思わず視線が釘付けになってしまう。
「中務 さん、手出さないでね」
ジロリと山瀬さんが、その中務さんを睨みつける。
「あはは。さて、君、名前は?」
「は、はい。獅子倉です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。これから、少し忙しくなるから、期待してるよ」
ニコリと笑うと、そのままカウンターに出ている料理をとって、フロアに出て行った。その颯爽とした後ろ姿をぼけっと見送ってた俺の頭を、軽く殴る山瀬さん。
「何、見惚れてるの?」
面白そうな顔で見てくるから、慌てて頭を左右に振る。
「い、いえいえ、ちょっと知り合いに似てて、びっくりしただけです」
「へぇ?中務さんに似てるって……結構なイケメンね」
「そ、そうっすね」
……うん。柊翔はカッコイイ。
「あ、あの方は?」
「中務さんは、フロアの責任者。フロアの唯一の社員さん」
「へぇ」
フロアを見ると、スラッとした後ろ姿が見えて、柊翔が同じような格好したら、似合いそうだなと思った。
「でも、気を付けてね」
下から見上げてくる山瀬さんの目が、なんだかキラリと光る。
「あの人、男の子好きだから」
……?
……えぇぇぇぇっ!?
ともだちにシェアしよう!