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3.二人だけのクリスマス?(6)
思わず顔を強張らせながら、山瀬さんを凝視する。
「……かわいいって言われてたし、本当に、気を付けてね?」
ニコリと笑ったかと思ったら、そのまま続けて、仕事の説明が始まった。
頭の中の半分くらいは、中務さんのことが気になっていて、山瀬さんの話をちゃんと聞けていなかった。それでも、その日の仕事が、思ってたよりも失敗しなくて済んだのは、山瀬さんのフォローのおかげ。さすが、長く仕事をしてるだけのことはある。そして、当然、中務さんにも助けられてしまって……初日にしては、悪くなかった気がする。
「お疲れ様でした」
閉店直後で、片付けが残ってる状態だったけれど、俺は帰りの電車のこともあって、先に帰らせてもらうことになった。
「お疲れ様~、獅子倉くん、気を付けて帰ってね?」
「はい。お先に失礼しますっ」
俺以外は、みんな地元みたいで、俺だけ先に帰らせてもらうのが、少し申し訳なく思う。
「ああ、獅子倉くん、次は、土曜日でいいのかな?」
従業員用の出入り口のところで、中務さんに捕まった。
「は、はいっ」
柊翔そっくりの顔で、「大丈夫?」と聞かれれば、素直に頷いてしまう。
「ランチから入れると助かるんだけど」
「わ、わかりましたっ」
気を付けてね、と見送られて、柊翔に言われてるみたいで、なんだかくすぐったい気分になる。そういえば、まだ、ちゃんと柊翔にバイトのことを話していなかった。
電車に乗り込んでから、スマホを取り出すと、柊翔に携帯でメッセージを送ろうと、電源を入れたら。
「ゲッ!」
柊翔からのメッセージが、つい引いてしまうほど、たくさん届いてた。自分がちゃんと説明してなかったのが悪いんだけど。
ピコン
新しいメッセージが届いた音。
当然、柊翔。既読のタイミングで送ってくるあたり……待ってたんだ。そんな姿を想像しただけで、なんだかにやけてしまう。
『どこにいる?』
『電車で移動中』
『なんで?』
『バイト始めた』
『聞いてない』
『今、言った』
電車の中でのやりとりが、めちゃくちゃ早い。この時間だと、もう家にいるのかな。
『迎えに行く』
「えっ」
乗っている人の少ない電車の中で、思わず声に出てしまう。今からなんて、明日も学校があるのに。
『もう、着くからいいよ』
メッセージを送ったのに、すぐに既読にならない。すでに、スマホを見ていない、ということか。もう、駅に向かってるんだろうか。
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