50 / 95
3.二人だけのクリスマス?(8)
土曜日は、初めてのランチタイムで、それがこんなに混むものだとは思いもしなかった。
「な、なんで、こんなに混んでるんですか?」
カウンターに同じタイミングで入った山瀬さんに、聞いてしまう。だって、二日目だっていうのに、ここまで忙しいのは、さすがに怖いというか。
「いや、うちの土日はこんなもんよ?」
あっさり言ったかと思ったら、すぐにフロアに戻っていく。あっけにとられながら、「できたよっ」とキッチンからの声に、慌てて受け取って、テーブルに運ぶ。
「がんばれ、新人」
そう言って、脇を通り抜けて、俺なんかよりもはるかに身体のでかい男の人が、両手に重そうなステーキの乗った木製のステーキ皿を運んでいく。筋肉ムキムキのこの人は、大学三年生の笠間さん。お客さんと、楽しそうに会話をしている姿を見ると、すごいなぁ、と思ってしまう。
「ほら、次の運んで」
中務さんから声をかけられるたびに、びびってしまうのは、山瀬さんの話のせい、というのは否定できない。できるだけ、そんな風に見えないように努力はしてるけど。
ランチタイムはあっという間に過ぎて、お客さんがひくと、俺たちのほうのランチタイムが始まる。食事をしながら、久しぶりにガッツリ食べていることに気が付いて、少しは身体に肉が付くかな、と、思っていると。
「新人、ちゃんと食べてるのか?」
隣に座ってた笠間さんが、見下ろしてきた。ほんと、この人デカイな。亮平よりもデカそうで、百九十センチくらいありそうだ。
「た、食べてますっ」
「なんか、細っこくてなぁ。ちゃんと食わないと、育たないぞ?」
ガハハハ、なんて、豪快な笑い声を頭の上から降らせられて、違う意味でビビってしまう。
「まぁ、まだ高校1年生だから、これからだよね」
ニッコリ笑っているのは、正面に座ってる中務さんで、ついつい柊翔とダブってしまって、なんだか恥ずかしく感じてしまって、あまり顔を合わせられない。
「あはは、そ、そうですね」
そう言いながら、俺はどんぶり飯をかき込んだ。
ディナータイムまで時間があるので、休憩時間に自分のお店での格好を撮って、柊翔に送ろうと、店の前に出た。昼間のこの時間帯は、近くのショッピングモールから流れてくる人が多いけど、さすがに暗くなってからじゃ、うまく撮れる自信はない。どんな店なのかも、柊翔に教えたかったし。店の入り口を背景に、こんなもんかな?と、スマホをのぞきこみながらカメラの位置を決めようとしていると、
「何々?一緒に撮る?」
俺の背後に、笑顔の中務さんが覗き込んできたのが見えた。
「え、えぇぇっ!?」
思わず、振りむいたとたん、俺のおでこ(というか、ほぼ眉のあたり)に、中務さんの顔面に直撃した。
「っってえぇ!?」
「す、すみませんっ」
なんだか、星がチラチラと飛んだ気がする。
ともだちにシェアしよう!