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3.二人だけのクリスマス?(9)

 涙目になった俺を、顔を赤くした中務さんが見つめてくる。 「ほ、ほんとにすみませんっ!」  きっと、ぶつかったせいで赤くなったんだろうと、思って、思い切り頭を下げた。  すると、クスクスと笑った声が聞こえてきた。ゆっくりと顔を上げて見上げると、楽しそうに笑ってる中務さんがいた。 「あー、痛かった」 「す、すみませんっ」 「獅子倉くんのおでこのあたりも、だいぶ赤くなっちゃったね」  そう言いながら、自然に俺の前髪をサラッと上げる。 「もしかして、セルカ撮りたかったの?」  優しく笑う顔に、柊翔の笑顔が重なる。そんなことを思ってしまった自分が恥ずかしくて、少しだけ身をひいてしまう。 「は、はい、知り合いに、ここで働いてるって、連絡しておきたくてっ」 「じゃあ、俺が撮ってあげようか?」  目の前に大きな手が差し出された。 「え?」 「ほら」  そう言われて、素直に渡す、俺も俺だけど。他人に自分の携帯で撮ってもらうのも、初めてで、なんか照れくさい。 「獅子倉くん、笑って~」  携帯越しにニコリと笑われて、顔を真っ赤にしてしまう。その瞬間にシャッター音が響く。 「うん、どうかな。これで」  見せてくれた画像は、カチカチに緊張しまくった笑顔の俺が写ってる。 「ありがとうございます」  もう少し自然な感じのが撮れればよかったかもしれないけど、何度も撮ってもらうのは恥ずかしくて。とりあえず、これで柊翔に送ってしまおう、と思って携帯を弄っていた俺。 「じゃあ、その代わりに」  えっ?と見上げた途端に、カシャッといういう音とともに、中務さんの笑顔が目の前にあった。 「おお、いい感じじゃない」  そう言って見せられた画面には、俺のびっくりした顔が写ってた。 「な、何撮ってるんですかっ!?」  驚いて固まってると、 「ん~?いいじゃない?減るもんじゃないし?」  ニコニコしながら、スマホを見ている中務さん。 「いや、でもっ」 「まぁまぁ」  そう言いながら、俺の頭をポンポンとすると、店の中に入っていった。 「えぇぇぇぇっ!?」  またも山瀬さんの言葉が頭をよぎる。 『あの人、男の子好きだから』  いやいや、まさか。きっと揶揄ってるだけに違いない。そうに決まってる。頭の中の俺に、そう納得させながら、俺はさっき撮ってもらった画像を柊翔に送った。 『ここで働いてます。この格好、似合ってる?』  ショートコートの下は、オレンジ色のポロシャツに、黒い短めのエプロンの俺。  柊翔はどんな顔して見てるんだろう。画像を見ている柊翔のことを想像して、一人にやけてしまう俺だった。

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