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3.二人だけのクリスマス?(11)
親父たちと駅前で待ち合わせて、電車に乗る。電車に乗ってまで、わざわざ飯を食いに行くなんて、初めてかもしれない。
「要くんの働いている姿、楽しみだわぁ~♪」
「ああ、頑張ってるんだろうなぁ」
親父も母親も、超ご機嫌。たまに近所のファミレスくらいは行くこともあるけど、ステーキハウスなんて滅多に行かない。最近は家族そろって出かけることすらも珍しくなってるから、それだけでも楽しいのかもしれない。俺にしてみれば、もう親と一緒にでかけるのは恥ずかしいだけなんだが、一人で食べに行くような店でもないかな、とも思うと、ここは、素直に一緒に行くしかない。
「電車だから、酒も飲めるしな。」
……だから、親父は余計にご機嫌だったりする。酔っ払いを連れて帰るのか、と思うと、なんだか、今から、げっそりしそうだ。
要がバイトしている店は、駅から少し歩いたところにあった。でも、近くに大き目なショッピングモールがあるせいか、人通りは多い。
「あそこかしら」
母親が、嬉しそうな声を出しながら指さす店は、要が送って来た画像通りに、なかなか洒落た感じの店構えだった。
ドアを開けると、肉のいい香りとともに、店内のスタッフの挨拶の声が飛んでくる。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
入口近くにいたのは、うちの母親と同世代くらいのおばさんで、空いている席に案内してくれた。フロアの中をテキパキと動き回るスタッフを見て、要はどこかな、と探すけれど、見つけられない。
「何食べようかしら」
「どれも旨そうだなぁ」
「……年なんだから、無理して食うなよ」
メニューをキラキラした目で見ている二人を見ながら、俺の方は心配になる。
「いらっしゃいませ」
メニューを見ていた俺たちのテーブルに、聞きなれた声。
「まぁ、要くん、似合うわねっ!」
照れくさそうな顔をしながら、水の入ったグラスを一人一人に置いていく要。
「さっそく、来てくださったんですね。ありがとうございます」
「もう、しばらく、うちにも来てくれないから、おばさん、心配したんだからぁっ!」
掴みかかりそうな勢いで、要に話しかける母親に、俺は慌ててメニューを差し出す。
「早くメニュー決めなよ。要が困るだろっ。」
二人ともが、真剣にメニューを選んでいる間に、俺の方が要に声をかけた。
「どう?」
「思ったより、大変です」
少し情けない顔をする要。そんな顔もカワイイと内心思ってしまう。
「ふふ。少しくらい大変なほうが、今のお前にはちょうどいいのかもな」
「……そうですね」
苦笑いしている要の頬に、思わず、手を伸ばしたくなった。
「よーし、俺はこれにするぞっ」
親父の大きな声で、その欲望は一瞬で吹き消された。
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