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3.二人だけのクリスマス?(13)

 レジに会計に行く母親の後を、俺と親父がついていく。そんな俺たちに気づいて、要が追いかけてきた。 「おじさん、おばさん、今日は、ありがとうございます」  ペコリと頭を下げる要を、優しい笑顔で見つめる親父と母親。 「……時々は、うちにも顔見せに来てね?」  会計を終えた母親がそういうと、少しだけ、ぎこちない笑顔を見せる要。 「また、おじさんの晩酌の相手、してくれよな」  親父の言葉にはコクリと頷く要。二人が先に店を出ていく後ろ姿を見つめる俺。 「柊翔?」  不思議そうな顔で俺を見つめる要に、俺の方がなんだか切なくなってくる。 「バイト、あとどれくらいで終わる?」 「えと……あと1時間くらいかかります」 「そっか……じゃあ、駅前に確か遅くまでやってるカフェがあったから、そこで待ってる」  俺の言葉に驚いた要。 「え、でも、おじさんたちは?」 「たまには夫婦水入らずでいいじゃん」 「……いいんだ?」 「いいの」  そう言い切ると、嬉しそうな顔をしたのを、俺は見逃さない。 「獅子倉くん」  俺たちの甘い空気を邪魔してきたのは、俺に似たあいつ。  他のスタッフがオレンジのポロシャツなのに、この人は一人、白いシャツで、たぶん、このフロアで一番偉い人なのかな、と思った。 「あ、はいっ」  慌てて返事をすると、『あとで』と、声に出さずに口だけ動かすと、その男のほうに小走りに向かっていった。要を見送ってると、男の方が、俺の方を見た。  ニヤリと余裕のある笑顔。なぜだか、男の顔にイラついて、俺はさっさと店を出た。要も、なんだか、あいつに懐いてるっぽく見えて、それも癪に障る。  店の前で、俺が出てくるのを親父たちが待っていた。 「ごめん、俺、要と一緒に帰るわ」 「……そう?」 「まぁ、閉店時間が遅そうだしなぁ」  きっとこれが俺だったら、そんな時間は気にもしないだろうに。要に対しては、親父たちは、かなり過保護だ。  二人仲良く駅に入っていく後ろ姿を見て、うちは仲がよくてよかった、と、思いながら、チラリと要の親父のことが頭をよぎる。思い出すだけで、イラッとしてしまう自分に、まだまだガキってことなのかな、と、自嘲する。  駅前のカフェは、意外に混んでいて、俺は窓際のカウンターで一人コーヒーを飲んでいた。目の前の通りは、酔っ払いが数多く通り過ぎていく。年末に向けて、飲み会みたいのが増えてるせいもあるのだろうか。こんなところを、要が一人で歩いてる姿を想像すると、心配になってくる。変な奴に、絡まれたりしないだろうか、と。  そろそろ、要が言った一時間になろうとするけれど、要の姿は見えてこない。携帯のほうもチェックするけれど、連絡もない。イライラしながら、店のある方を見ると、走ってくる人影が見えてきた。  白い息を吐きながら、俺のいるカフェに向かって走る要。一生懸命になってる顔を見ると、俺って要に愛されてるかも、なんて、自惚れたくなる。そして、自然と笑みがこぼれてしまうのだ。  カフェの入口を、申し訳なさそうにのぞいてくるから、軽く手をあげて、要を呼ぶ。俺に気づくと、そのまま、俺の隣の空いている席に座り込んだ。 「すみません、遅くなって」  肉のいい匂いをさせながら座る要に、思わず、鼻をひくつかせてしまう。 「あ、匂いますか?」  自分の服の匂いをかぎながら、ここでも申し訳なさそうな顔をする。 「仕方ないよ。仕事なんだから」  そう言って笑うと、要もようやく、いつもの笑顔を見せてくれる。この笑顔を見るたびに、ついつい、頭を撫でたくなってしまのだ。

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