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3.二人だけのクリスマス?(14)
地元の駅に着くと、要のアパートに向かう。途中にあるコンビニに寄るのが、いつものコース。要がここで買うものも、だいたい決まったものになってる。朝食べるパンに、卵とソーセージ。たまにオレンジジュース。きっと今もカゴに同じ物を入れてるんだろうな、と思うと、フッと笑いが零れる。
会計を終えるまで、俺は窓際の雑誌のコーナーで雑誌をペラペラとめくっていた。
「……てよ」
「はぁっ!? 」
急に要の大きな声が聞こえた。なんだ!?と思い、慌てて要のところに行くと、レジのところでコンビニの店員につかまってる。
「要、どうした?」
「なに、あんた、カナメって言うんだ」
その声に店員のほうに意識が向いた。
おいおいおい。なんで、如月がいんだよ。
「よぉ。鴻上くん」
チャラい笑顔で、俺に挨拶をしてきた。俺は驚いて、一瞬、反応が遅れた。
「……如月くん、バイトかなにか?」
レジの中に、コンビニの制服を着て立ってるからには、ここの店員ってことなんだろう。同じ受験生だというのに、バイトをしている姿に、どれだけ余裕があるんだ、と少しだけ苛立ちを覚える。
要は、俺の背後に少しだけ隠れるように立つ。
こいつ……要に何言ったんだ。
「ああ、ここ、うちの店」
「は?」
「今日は、ちょっとバイトが都合つかなかったから、俺が代わりに入ってるだけ。」
「……へぇ」
コンビニの場所からいって、如月って、もしかして、俺と同じ中学だったのか?思い出そうとしたけれど、俺の中では、全然、覚えてない。あんだけ優秀な奴なら、覚えていそうなものなのに。もしかして、高校になってから、こっちに来たのか?
「ところで、カナメちゃん。真面目に、考えてよ」
身を乗り出して、俺の後ろにいる要の顔をのぞきこもうとする。
「ま、真面目もなにも、お断りですっ」
すごく嫌そうな顔をしている要。
「なんで~」
「な、なんでって、俺、男ですよ?どう見ても、わかりますよね?それに、第一、あんたのこと知らないしっ」
そう言ってる間に、他の客が並ぼうかと、チラチラ見てる。
「如月くん、会計、終わらせてくれない?」
俺が払うから、お前は外にいってろ、と、小声で要に言うと、レジに入ってる如月に向かう。要は不安そうな顔で小さく頷くと、店から出ていく。
ニヤニヤ笑っている如月に金を渡して、釣りをもらうと、それ以上話もせずに、外で待つ要のもとに急いだ。
「要」
声をかけると、眉間にシワをよせて、俺の方に振り向いた。
「柊翔、あの人、知り合い?」
「ああ、同じ予備校行ってるやつ。あいつに、何言われたの?」
「……付き合えって」
要の言葉に、一瞬、言葉に詰まった。
「……それは……そういう意味の『付き合え』なんだろうな?」
「……たぶん」
「他に何か言われたんじゃないの?」
「……前から気になってたって」
店の中の如月を見ると、まだレジで接客をしている。
「あいつと会ったことあったの?」
「俺は覚えてないけど……いつも来てるから、覚えられた可能性はあるかも……」
確かに、新しい部屋に引っ越してから、学校帰りとかに必ず寄っていただろう。それでも、如月は予備校にも通っているから、そう頻繁に会えているとは思えないが。
「もう、帰ろう?……なんか、疲れちゃった」
今日は、いつにもまして、少し甘えた言い方をする。そう思って、チラッと顔を見ると、本当に疲れてるみたいだった。俺たちはコンビニを後にして要のアパートに向かった。
あまり明るくはない帰り道、人通りがないおかげで、ずっと手を握り合ったまま、俺たちは無言で歩き続けた。
急に要の周りに、心配の種が増えた気がする。如月もそうだけど、ステーキハウスのあの男。俺の帰り際に向けてきた視線は、あまり気分のいいものじゃなかった。そんなやつのそばに、要がいると思うと、落ち着かない。でも、働いている要は、とても楽しそうだった。
隣を歩く要を見ると、少し微笑んでいるように見える。
「バイト……楽しいか?」
「はいっ」
ニコッと返ってくる笑顔に、ついつい俺の顔も緩んでしまう。
「……明日は?」
「あ、はい。一応、ランチタイムだけ行く予定です」
楽しそうな要の気持ちに、水をさすのも気が引ける。
歩く先に、要のアパートが見えてきた。
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