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3.二人だけのクリスマス?(16)
翌日。柊翔は、俺がランチタイムの仕事に向かうのと同じ時間に、自分の家に帰っていった。いつにもまして、柊翔がなかなか俺を離してくれなくて、出かける準備に手間取ってしまった。
……嬉しいんだけど。
昨夜の行為の余韻なのか、ふとした瞬間に、柊翔の顔を思い出して、一人で顔を赤らめてしまう。一人じゃない夜は、やっぱり、次の日のスタートの気分が違う。
「おはようございます~」
気分よく、店の裏口から入っていくと、オーナーの境さんと中務さんが楽しそうに話していた。
「ああ、おはよう。獅子倉くん……ん?」
コートを脱いで二人の前を通り過ぎようとしたとき、中務さんが、俺の襟のところ捕まえた。
「ウゲッ、な、なんすかっ!?」
思わず、首が絞められるみたいに、引っ張られたから、変な声が出てしまった。中務さんの指が、俺の首筋を、撫でる。
う、うわっ。なんだか、ぞわぞわする。
慌てて、振り返ると、なんだか意味深な顔で、俺を見ている。
「な、なんすかっ」
「いや……」
いつの間にか、オーナーはキッチンの中に入っていて、その場には、俺と中務さんの二人だけ。首のところを、じっと見ながら、面白いものを見つけた、という顔をする。
「?」
「獅子倉くんの彼女は、ずいぶんと、ヤキモチ妬きなんだなって」
「へ?」
「ここ」
中務さんは、首のところをつつく。
「うお、くすぐったいんですけどっ」
「キスマークついてるよ」
「!?」
慌てて、首のところを隠す。
し、柊翔ってば、見えるとこにつけたのかよっ!?
「獅子倉くんって、かわいい顔してるのに、やるねぇ」
クスクス笑ってる中務さん。恥ずかしすぎて、俺は慌ててスタッフルームに逃げ込んだ。
「あ、おはよう~。あら、ずいぶん顔が赤いけど、大丈夫?」
山瀬さんが心配そうな顔で聞いてくるから、余計に恥ずかしくなる。
「だ、大丈夫ですっ」
俺は慌ててポロシャツに着替えようと、ロッカーの前に立った。その時、ハッと思ってしまった。
……柊翔……他にもつけてたりしないだろうか?
俺が着替え始めようとしてるのに気づいて、山瀬さんと、もう一人の女性はスタッフルームを出て行こうとしていた。今のうちに着替えれば、と思って、一気に上着を脱いで、ポロシャツを頭からかぶった。ロッカーに付いている小さな鏡に、中務さんが指さしたところを見てみる。自分で見ようとしても、見えないところに付いてるのか。
「……何してんの?」
「うわっ!?」
いつの間にか、ひょろっとした関口さんが、隣に立っていた。
「え、いえ、なんでもないですっ」
俺は、関口さんの後ろを通り抜けながら、フロアに向かう。とりあえず、俺の見えるところでは見つけられなかったけど。中務さんが見つけられたんだったら、俺よりは小さい山瀬さんとかには、見つからないかな?そんなことを考えながら、フロアに出ると、山瀬さんたちはすっかり準備を始めていた。
山瀬さんのところに何を手伝えばいいか、聞きながら、仕事をしていると、誰かの視線を感じる。
チラッと視線を感じる方を見ると、中務さんが、じっと見ていた。
思わず、目線が合ってしまって、ドキッとしてしまう。俺は、すぐに顔をそらしてしまった。
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