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3.二人だけのクリスマス?(17)

 クリスマスプレゼントを買うために始めたバイトも、あっという間に二週間が過ぎて、クリスマスイブが目前となった。  今日のバイトが始まる前にオーナーに頼んでおいたバイト代。とりあえず、二週間分出してもらえた。実際受け取った封筒の中身は、働いてる時間の短さが反映されてる。 「うあ。やっぱ……少ねぇ……」  思ってたよりも少ない現実に、こんなんじゃ、一人で生活とか、無理じゃないかって、現実を思い知らされる。そうは言っても、柊翔にプレゼントするものを買うだけなら、十分なはず。何を買おうかなぁ、と思いながら、封筒をバックに仕舞いこんだ。 「なになに、クリスマスプレゼントでも買うの?」  後ろから声をかけてきたのは、中務さん。 「うわ、い、いきなり、声かけないでくださいよ」  慌てて、バックを背負うと、ロッカーを思い切り閉めた。 「だって、このタイミングでバイト代もらってたら、普通に考えるし」  そして、近い、近いです。顔が。 「し、仕事いいんですかっ」  俺は、いつも通り、早めにあがらせてもらってるけど、店のほうはまだまだやってるわけで。 「ん、今は、少し落ち着いてるから。二人もいれば大丈夫」  いや、俺は大丈夫な気がしませんから。 「ねぇ、何買うの?」 「いや、中務さんには関係ないですから」 「えー、俺は、獅子倉くんが何買うのか興味あるけど」  ……そう、この人は。  バイトの間中、気が付くと触ってきたリ、俺が照れそうなことばっか、話しかけてくる。 「もう、いい大人が、俺なんか揶揄ってないで、仕事してくださいよ」  真っ赤になりながら、従業員出口のほうに向かおうとする俺の後を、中務さんもついてきた。 「いい大人だけど、獅子倉くんの前だと、お子ちゃまになっちゃうの~」  ……マジで勘弁。  顔を引きつらせながら、後ろを振り向くと、柊翔に似たその顔が、少し、意地悪そうな顔で見下ろしてきてた。その目を見ただけで、身体が固まる。  ……そうだ。  あの時の亮平の目と同じものを、その中に見た気がした。 「……っ!?」  俺が、身動きできなかったのが悪いのかもしれないけど、この人は、あっさり、俺にキスしてきた。 「ふふ。ご馳走様。これで、今日は乗り切れるな」  呆然とした俺の頭を撫でると、さっさとフロアに戻っていく中務さん。 「……!?」  自分の不甲斐なさに、思わずしゃがみこむ。  なんなんだ、あの人はっ!?頭が真っ白の俺の頭の上から、関口さんの声が落ちてきた。 「獅子倉、早くしねぇと、電車に乗り遅れるんじゃねぇの?次、二十分後になるぞ?」  そんなところに、関口さんがいたことにも驚いたし、冷静な声にも驚いた。 「あ、は、はいっ」  俺は慌てて立ち上がると、出口に向かおうとした。 「あと」  関口さんの言葉が続く。 「あの人の、あんまり気にすんな」  思わず、振り向く。 「み、見てたんですかっ!?」 「まぁ……」  見られてたってことに、恥ずかしさがジワジワと侵食してくるみたい。 「あれ、たぶん、今だけだから」 「な、なんでですか?」 「あぁ……今、彼氏が長期出張中だから?」  ……は? 「今度、話してやるから、今日はとりあえず帰れよ」  ボソリと言って関口さんは、戻っていった。ジッとその背中を見つめていたけれど、時間がないことを思いだして、俺は慌てて駅に向かった。

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