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3.二人だけのクリスマス?(18)
教えてくれると言った関口さんと同じシフトになったのは、その二日後。週末のランチタイムの後の休憩時間に、関口さんと一緒に、近所のコーヒーショップに行った。
関口さんは、この週末で終わり。柊翔と同じ高三で受験勉強に集中したいから、と、俺と交代で辞めることになっていた。
「……あれから、ちょっかい出されてない?」
ボソリと聞いてくる関口さん。普段、あまり話をしなかっただけに、こうやって一緒にいること自体がなんだか変な感じだ。
「まぁ……ちょくちょくボディタッチはありますけど」
苦笑いしながら、カフェオレをすする。
「まぁ、年末になれば、落ち着くから。たぶん」
「……彼氏ですか?」
「そ」
「……」
関口さんも、コーヒーをすすりながら、話はじめた。
「年末には帰ってくるからさ」
「……なんで、そんなこと知ってるんですか」
人の彼氏の情報なんて、普通、知らないと思う。
「俺の兄貴だから?」
「……誰が?」
「……彼氏?」
思わず、俺は固まった。
「……え?」
さらっと、この人、言ったよね?それで、そのままスルーしてる?
「マジですか」
俺が口にできたのは、それだけで。
「ああ」
ただ、呆然と関口さんを見つめる。
「単に、欲求不満なんだろ。いつも、兄貴にベタベタしてる人なのに、その対象が近くにいないからさ」
普通に話し続ける関口さんに、俺は、ただ口を開けて聞いてるだけ。
「獅子倉くんとは、似てもいないんだけどなぁ。うちの兄貴」
ひょろっとした関口さんの印象が強すぎて、中務さんと関口さんのカップル姿を連想してしまって、違和感しか感じない。
「……獅子倉くん、俺と兄貴も似てないからな」
残念そうな眼差しで俺を見る関口さん。
「そ、それって、家族公認なんすか?」
思わず言葉にしてしまったのは、好奇心が勝ってしまったからで。
「ん……まぁ、親も諦めてるっていうか」
コーヒ―カップの中を見つめる関口さん。
「うち、姉貴もいるし。普通に会社員だから、家継ぐとか関係ないしね」
「……」
そうか。親からしてみれば、まだ孫を見られる可能性があるから。
そのことに気づいた時。
俺は。
柊翔は。
今更ながら、おじさん、おばさんの望むような未来には、進めないということに気づいて、急に、怖くなってきた。
「まぁ、あの人も、揶揄ってる程度だと思うからさ、うまくかわしてやってよ」
淡々とそれだけ言うと、そろそろ戻るぞ、と席を立った。
俺は一人、ぐるぐると考えが暗い方へと、堕ちていくだけだった。
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