63 / 95
3.二人だけのクリスマス?(21)
駅に着いて改札を抜ける。嫌というくらい、クリスマスモード全開で、一人で家に帰るのが嫌になるくらいに、クリスマスソングが鳴り響く。コンビニでケーキでも買うか、と思ったけど、帰り道の途中の店には、柊翔の知り合いがいたことを思いだす。そいつと会う可能性も、そいつが面倒このうえないことも、余計に俺を苛立たせる。
「……どうせなら、美味いもん買って帰ろうか」
そういえば、駅の反対側には、美味しいケーキを売ってる店があった。そこはイートインのスペースもあったし……って、男の俺だけってのは、ちょっと恥ずかしいかな。
店まで行ってみると、サンタの格好をした女の子が、懸命にクリスマスケーキを売っていた。タイミングよく、ちょうど何組かのお客さんが出て行くところで、席には、人がほとんどいない。
「ああ、もうちょっとで閉店時間なのか」
当然、店内のケースに置かれているケーキも、ほとんど残っていない。
「まぁ、それでもいっか」
俺は、一人で店内に入った。悩むほどもケーキは残っていなくて、辛うじて残っていたフルーツがたくさんのっていたケーキを選ぶ。
「あの、食べてってもいいですか?」
目の前でケーキを取ろうとしてくれる女の子に、聞いてみる。
「いいですよ。飲み物はどうしますか?」
にこやかに対応してくれる彼女に、ホッとして、コーヒーを頼む。小さなトレーに、ケーキとコーヒーをのせると、奥の方の席に座る。きっと、さっきの女の子は、俺のこと、寂しいヤツとでも思ってるんだろうなぁ、なんて思って苦笑い。でも、目の前のケーキは、そんなこと思われたって構わない、と思えるくらいに旨そう。
ふと、柊翔に悔しがらせたくなって、スマホで撮って、送ってやろうと思った。どうやったら、上手く撮れるか、悩んでいると、
「よかったら、これも、食べませんか?」
さっきの女の子が、わざわざ、ケースのところから出てきて、俺に声をかけてきた。彼女が俺に見せたのは、なんと、サンタクロースの形をしたお菓子?よくケーキの上にのっているやつだ。
「え?」
不思議に思って、彼女を見つめると、顔を赤らめる。
「あ、こ、これ、お客さんが買われたケーキについてたんですけど、肝心のケーキ、お渡しするときにぶつけてしまわれて。別のをお持ち帰りになったんです。でも、上にのってるのは無事で……私たちで食べちゃうつもりだったんですけど」
チラッと、外の女の子のほうを見る。寒い中、まだ、頑張って声を出している。
「え、いいんですか?」
「あ、はいっ。まだ、ホールで残ってるやつもあるし。あれ、売れ残っちゃったら、私たち、食べるか、捨てるしかないから。」
ちょこんと、俺の皿にのせたかと思ったら、ペコリと頭を下げて戻っていった。
「……ラッキー?」
スマホのカメラには、可愛らしいサンタ付のケーキの画像をおさめて、思わず、微笑んでしまう。
ともだちにシェアしよう!