64 / 95

3.二人だけのクリスマス?(22)

「おーいーしーそーでーしょーっと」  柊翔と亮平、二人にメッセージと一緒に画像を送る。 「よし、食うか」  スマホを置いて、ケーキをフォークで切り崩していく。口の中に広がる果物の甘みが、一人クリスマスの俺を癒してくれる気がする。 「うまっ」  思わず微笑んでケーキをどんどん口に運んでいると、スマホが揺れるのに気づく。届いたのは亮平からのメッセージだった。 『美味そうだな。でも、一人?』 『うん』 『柊翔は?』 『なんか、拉致られたっぽい』  メッセージを送りながら、俺はどんどんケーキを食べてしまって、目の前に残るのは、サンタクロース。 「サンタさん、いただきます」  俺は、頭からパクリといってしまった。 「……甘っ」  砂糖の塊みたいなそれを、コーヒーで飲み込む。 『今、どこ』  亮平の言葉に、ドキッとする。場所を教えたところで、亮平が来るわけでもなし。 『駅前のカフェ。もう食べ終わったから、帰る』  メッセージを送ったと、同時に、コーヒーを飲み干した。 「ご馳走様でした」  トレーを戻しながら、ケースのところにいた彼女に声をかけて店を出る。 「ありがとうございました~」  元気のいい声に送られて、家に向かう。なんだかケーキで腹がいっぱいな気分になってるから、まっすぐに家に帰ろうと、コンビニに寄らずに帰り道を急ぐ。コンビニを越えたあたりから、一戸建てが増えるせいか、あちこちでクリスマスのイルミネーションに力を入れている家々が見えてくる。この辺は、新しい住宅地のせいなのか、やたらと、イルミネーションに凝っている家が多い。実家のほうでは、ここまでやってる家がなかったせいか、なかなか面白いと、眺めながら歩いていると、自然と歩くスピードが遅くなる。その風景に気をとられすぎていた。 「カナメく~ん」  いきなり、背中から誰かが抱きついてきた。アパートまで、あと少し、というところ。急すぎて、叫び声もでず、まるで、ヒィッ!!、という、息を吸い込む音しか出ない。その上、驚きのせいで、身体が固まってしまって、最悪の状態。 「ようやく、捕まえた」  俺よりデカい男が、俺の耳元で囁いてくる。その声のおかげか、ようやく身体が頭と直結したみたいで、張り付いてるやつから逃れようと、思い切りもがいた。 「ああ、そんなに暴れなくても」  そう言うと、俺を抱きしめてた腕を離す。 「だ、誰だよっ」  思わず振り向いたところで目の前にいたのは、コンビニの男だった。 「つれないなぁ」  ニコニコと笑いながら、俺の方に近づいてくる。 「一人で帰り?今日は、ナイトはいないんだ」  柊翔と同じくらいの身長だけど、茶髪でチャラい感じが、軽薄そう。 「あ、あんた、なんなんだよ」  柊翔と知り合いみたいだったから、下手な対応はしちゃまずいか。そんなことを頭をかすめるくらいには、冷静になれてた。 「だから、言ったじゃない。俺と付き合ってって」  目の前の男は、楽しそうに言いながら、段々と近づいてくる。 「なっ。何言ってんの。俺は、男だって、言ってるじゃん」 「関係ないっしょ」 「はぁっ!?」  俺は、じりじりと後退してるのだけれど、あいつのほうが歩幅がでかいせいで、近づいてくる。このまま、猛ダッシュで逃げてもいいかな。俺の恐怖心も、そろそろ限界。駆けだそうと、背中を向けた。 「おっと、逃げないでよ」  背中にかけてたバックを掴まれて、また、こいつの腕の中に戻されてしまった。  な、なんで、こうなるんだよっ!? 「う、うわぁっ!?」  俺は、もう一度、こいつから逃れようとしてるのに、今度は、ガッチリ抱きしめられてる。 「なぁ、鴻上なんかやめて、俺にしない?」 「!?」  こ、こいつは、俺たちのこと、知ってる!? 「何言ってるんですかっ」 「あれ~、違うの~?」  ギュウッと抱きしめられて、こいつの顔が、俺の頬に触れる。  ……き、気持ち悪い。  背中がぞわぞわする。足に力が入らなくなる。  亮平とのことは、もう、乗り越えられたと、思ったのに。 「違うんだったら、別にいいけど」  耳元で囁く低い声と、息が、俺の恐怖心を増幅させる。こいつの手が、俺の頬を撫でて、唇が触れた。 「!?」  恐怖で、息が、だんだんと、あがってきてる。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」  た、助けて。  俺は、もう、ダメ……か……も。

ともだちにシェアしよう!