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3.二人だけのクリスマス?(22)
「おーいーしーそーでーしょーっと」
柊翔と亮平、二人にメッセージと一緒に画像を送る。
「よし、食うか」
スマホを置いて、ケーキをフォークで切り崩していく。口の中に広がる果物の甘みが、一人クリスマスの俺を癒してくれる気がする。
「うまっ」
思わず微笑んでケーキをどんどん口に運んでいると、スマホが揺れるのに気づく。届いたのは亮平からのメッセージだった。
『美味そうだな。でも、一人?』
『うん』
『柊翔は?』
『なんか、拉致られたっぽい』
メッセージを送りながら、俺はどんどんケーキを食べてしまって、目の前に残るのは、サンタクロース。
「サンタさん、いただきます」
俺は、頭からパクリといってしまった。
「……甘っ」
砂糖の塊みたいなそれを、コーヒーで飲み込む。
『今、どこ』
亮平の言葉に、ドキッとする。場所を教えたところで、亮平が来るわけでもなし。
『駅前のカフェ。もう食べ終わったから、帰る』
メッセージを送ったと、同時に、コーヒーを飲み干した。
「ご馳走様でした」
トレーを戻しながら、ケースのところにいた彼女に声をかけて店を出る。
「ありがとうございました~」
元気のいい声に送られて、家に向かう。なんだかケーキで腹がいっぱいな気分になってるから、まっすぐに家に帰ろうと、コンビニに寄らずに帰り道を急ぐ。コンビニを越えたあたりから、一戸建てが増えるせいか、あちこちでクリスマスのイルミネーションに力を入れている家々が見えてくる。この辺は、新しい住宅地のせいなのか、やたらと、イルミネーションに凝っている家が多い。実家のほうでは、ここまでやってる家がなかったせいか、なかなか面白いと、眺めながら歩いていると、自然と歩くスピードが遅くなる。その風景に気をとられすぎていた。
「カナメく~ん」
いきなり、背中から誰かが抱きついてきた。アパートまで、あと少し、というところ。急すぎて、叫び声もでず、まるで、ヒィッ!!、という、息を吸い込む音しか出ない。その上、驚きのせいで、身体が固まってしまって、最悪の状態。
「ようやく、捕まえた」
俺よりデカい男が、俺の耳元で囁いてくる。その声のおかげか、ようやく身体が頭と直結したみたいで、張り付いてるやつから逃れようと、思い切りもがいた。
「ああ、そんなに暴れなくても」
そう言うと、俺を抱きしめてた腕を離す。
「だ、誰だよっ」
思わず振り向いたところで目の前にいたのは、コンビニの男だった。
「つれないなぁ」
ニコニコと笑いながら、俺の方に近づいてくる。
「一人で帰り?今日は、ナイトはいないんだ」
柊翔と同じくらいの身長だけど、茶髪でチャラい感じが、軽薄そう。
「あ、あんた、なんなんだよ」
柊翔と知り合いみたいだったから、下手な対応はしちゃまずいか。そんなことを頭をかすめるくらいには、冷静になれてた。
「だから、言ったじゃない。俺と付き合ってって」
目の前の男は、楽しそうに言いながら、段々と近づいてくる。
「なっ。何言ってんの。俺は、男だって、言ってるじゃん」
「関係ないっしょ」
「はぁっ!?」
俺は、じりじりと後退してるのだけれど、あいつのほうが歩幅がでかいせいで、近づいてくる。このまま、猛ダッシュで逃げてもいいかな。俺の恐怖心も、そろそろ限界。駆けだそうと、背中を向けた。
「おっと、逃げないでよ」
背中にかけてたバックを掴まれて、また、こいつの腕の中に戻されてしまった。
な、なんで、こうなるんだよっ!?
「う、うわぁっ!?」
俺は、もう一度、こいつから逃れようとしてるのに、今度は、ガッチリ抱きしめられてる。
「なぁ、鴻上なんかやめて、俺にしない?」
「!?」
こ、こいつは、俺たちのこと、知ってる!?
「何言ってるんですかっ」
「あれ~、違うの~?」
ギュウッと抱きしめられて、こいつの顔が、俺の頬に触れる。
……き、気持ち悪い。
背中がぞわぞわする。足に力が入らなくなる。
亮平とのことは、もう、乗り越えられたと、思ったのに。
「違うんだったら、別にいいけど」
耳元で囁く低い声と、息が、俺の恐怖心を増幅させる。こいつの手が、俺の頬を撫でて、唇が触れた。
「!?」
恐怖で、息が、だんだんと、あがってきてる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
た、助けて。
俺は、もう、ダメ……か……も。
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