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4.甘くて、甘くて、苦いもの(1)

 大晦日は、鴻上のおじさんと、おばさんが『うちに来なさい!』と、無理やりに連れていかれ、とても楽しい年越しを過ごさせてもらった。元旦の朝、おじさんからは、親父からのお年玉を渡されそうになったけど、そんなものを受け取る気にはなれなくて、返してもらうように頼んでしまった。 「もらえるもんは、もっらとけばいいのに」  おばさんは、俺同様に親父のことを許せずに、怒りの表情を隠さない。 「すみません……でも、触れたくもないんです。ただでさえ、一人で生活できてないことを考えると……これ以上は嫌なんです。」  早く、一人で生活できるようになりたい。  あんな奴に、頼らないようになりたい。  そればかりが、頭に浮かぶ。 「そんなに嫌なら、うちの子になっちゃえばいいのに」  さらっとおばさんは言うけど、そんな簡単じゃないんです。  できるだけ柊翔の勉強の邪魔にならないようにと、ちょうど部屋に籠ってた柊翔には声をかけずに、夕方には、さっさと自分のアパートに帰って来た。殺風景な部屋の中は、正月らしさのかけらもない。戻ってすぐにしたのは、仏壇に新しいお茶と線香をあげること。 「ただいま」  一人で仏壇に向かっていると、自然と涙がこぼれてしまう。ああ、俺、まだまだ、ダメだなぁ。 「母さん、ごめんね。泣き虫で」  涙をぬぐっていると、スマホにメッセージの着信があった。  ……柊翔? 『今、どこ?』 『アパートに戻ってる』 『これから、行く』  こっちは、勉強の邪魔になると思って、引き揚げてきたというのにっ。 『勉強は?』 『正月三が日くらい、少しくらいやらなくても大丈夫』  そ、そういう問題じゃないだろう!? 『これから、買い物に出るから』  それだけ送ると、俺は急いでアパートを出た。  そりゃ、来てくれるのは嬉しい。嬉しいけど、俺の心配してる気持ちとか、どうなるの?  俺は、悶々としながら、気が付けば駅のほうに向かってた。実際、うちの近所には、元旦の、もう日が落ちてる時間にやってるスーパーはなくて、駅前のほうまでいけばあるかな、なんて、頭の中をよぎってたのは事実。残念ながら、こっち側では見つけられなかったから、駅の反対側まで足をのばした。 「……おじいちゃんと、おばあちゃん、ずいぶんたくさんお土産くれたわね」  楽しそうな女の人の声が、聞こえてきた。子供にでも語り掛けているようすから、帰省からの帰りなんだろうな。少し、羨ましいと、思ったら。 「帰ったら、開けような」  ……っ!?  ……最低だ。  正月早々、楽しそうな親父の声を聞くなんて。

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