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4.甘くて、甘くて、苦いもの(4)

「そういえばさ」  こそっと話しかけてきたヤス。 「あの人、鴻上先輩に似てねぇ?」  ヤスの視線の先には、案の定、中務さんの姿。 「ああ、やっぱ、そう思う?」  俺もそう思ってたから、苦笑いしてしまう。 「茜と話してたんだけどさ」  ほほぉ。二人でいるときは、呼び捨てなんだ、と思うと、そこでもやっぱり、ニヤニヤしちゃうんだけどな。そんな俺のことなんか気にもせず、じっと中務さんを見てる。そして真面目な顔で爆弾を落とす。 「……お前、浮気とかしてねぇだろうな?」 「はぁっ!?」  騒々しいフロアなのに、俺のひっくりかえった声が響く。慌てて、身体を小さくしてヤスに文句を言う。 「お、俺って、そんな信用ないわけ?」 「い、いや、だって、あの人、俺が見てもカッコイイじゃん?それに、お前だって、仲良さそうだしさ」 「ヤスくん、獅子倉くんの反応見れば、そんなことないの、わかったでしょ?」  笑いながら、デザートを口に運ぶ佐合さんに、ヤスも情けない顔になる。 「ごめんね。ヤスくんてば、獅子倉くんのこと、心配してるの」 「心配って……俺は、ヤスの息子か?」  呆れながらそう言うと、顔を真っ赤にしながら言い返してくる。 「な、なんだよ。俺はお前と鴻上先輩のこと心配だからっ」 「俺たちのことなんかより、自分のこと気にしろっての。ねぇ、佐合さん」  ニッコリと笑って佐合さんを見ると、顔を赤くする彼女。ヤスは、そんな彼女を見て慌てだす。 「なっ!?あ、茜、まさかっ!?」 「ば、バカなこと言ってないで、デザート食べようよっ!」  じゃ、ごゆっくり、と言って離れながら、チラリと二人を見ると、顔を赤らめてる。クスッと笑ってカウンターに戻ろうとした時、中務さんに捕まった。  正直、めんどくさい。 「要くんさ」  料理が出てくるのを待っている俺の隣に立つ中務さん。キッチンのざわめきのせいか、俺たち二人だけのように感じてしまう。 「なんすか」  セクハラはされなくなったけど、距離感が近くて、居心地が悪い。つい、身体をひいてしまうのに、中務さんは気にすることなく、間を詰めてくる。 「俺って鴻上くんて子に似てるの?」  この人は、どこまで聞いてたんだ? 「……」 「その彼って、この前、ご両親と一緒に来た子……だよね?」  顔を見ずに、俺はただ料理が出てくるのを待つ。だけど、俺は血の気が引いていくのだけは、自覚してしまう。中務さんは、ゆっくりと俺の腰に手をまわしてきた。 「ねぇ、もしかして、彼氏?」  俺の背中にゾワリと悪寒が這い上がってくる。 「……関口さんに、言いつけますよ」  目の前に料理が出てきたのをいいことに、それだけ言うと、俺はさっさと料理を受けとると、フロアに出て行く。  誰かがジッと俺の背中を見ているような気がした。  てっきり、また中務さんかと思っていたら、別の方向から彼の声がした。気になって視線を感じた方を振り返ってみたけれど、そこには誰もいなかった。  俺は、首を傾げながらも、再び、キッチンへと戻った。

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