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4.甘くて、甘くて、苦いもの(5)

 冬休みも終わり、いつも通りの日常が戻って来た。バイトはとりあえず続けてはいる。できるだけ中務さんには近寄らないようにはしてるけど。もしもの時は、本気で関口さんのお兄さんに連絡してやる。関口さんが辞められるときに、一応、連絡先、聞いておいてよかった。  そして、柊翔も試験勉強に集中しなくちゃいけない。なんたって、もうすぐ志望大学の入試が待ってるんだから。でも、俺たち一年には、まだまだ先の話に感じてる。実際、あと二年は先の話だ。  そのせいもあって、この時期の教室ではバレンタインデーの話でもちきり。特に女子があちこちで、ヒソヒソ、時々、悲鳴をあげてバレンタインデーの話で盛り上がってる。そんな様子を、冷ややかに見ているようで、内心、期待と不安でいっぱいな男ども。  残念ながら、俺はその中には含まれていないけど。  ……いや、そうでもないか。  俺がもらう側については、何も考えていないけれど、柊翔がもらう側、ということであれば、やっぱり、少しだけ心配になる。きっとたくさん貰うんだろうな、って思うけど。  柊翔は大丈夫。  そう信じてはいる。  信じてはいるけれど。 「もう、卒業間近だし」 「そうよね」 「こんな機会、もうないんだし」 「だって、先輩、彼女いないでしょ」  あからさまに、彼女たちの言ってるのが柊翔のことだって、わかってしまう。だって、柊翔が、俺のところにくると、途端に無口になって、柊翔のことを熱い眼差しで見ているんだから。  教室の入り口に立つ柊翔に、視線が集中する。そんなこと気にもしないで、柊翔の視線は俺に向かう。彼女たちには悪いけど、この視線は俺のもの。 「要」  にこやかに笑う柊翔に呼ばれたら、何があっても、そばに行きたくなる。  自然と笑顔がこぼれてしまう。  ……俺って、重症だよな。

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