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4.甘くて、甘くて、苦いもの(7)
K大の入試当日。試験会場で、亮平と遭遇した。まさか、あいつも同じ大学を受けるとは思ってもみなかった。たまたま、試験の合間の休憩時間の息抜きに廊下に出たところで、亮平とばったり出会ってしまった。
俺自身、亮平と会うのは夏以来だった。電話やメールでは、何度か連絡はとりあっていたけれど。
「柊翔も、ここだったとはね。教室、ここ?」
亮平がチラリと中を覗く。
「……ああ」
「俺、隣の教室……てことは、学部も一緒か……ところで、要は元気?」
「たぶん」
「たぶん?」
「俺が試験間近だからって、要が遠慮して、なかなか会えなくてね」
嫌味ではなく、すんなりと言葉にできるくらいには、俺はもう亮平を嫌いではなくなってる。
「そういえば、前に要にちょっかい出してきてたヤツ、試験会場で見かけたよ」
「え」
「なんか試験というよりも、彼女とデート、みたいな感じに、女子が絡んでたけどな。まぁ、余裕のあるやつは違うな」
彼女……たぶん、赤塚だろう。
「……へぇ。まぁ、あいつは、ああ見えて、あの進学校のT高だしな」
「意外だな。あんなチャラいヤツがいるんだ」
俺も、なんで、あんなのがいるんだって思うよ。
「もし受かったとして、あいつと同じ大学ってのは、嫌だな」
ムッとした顔の亮平。
「同感だ。」
同じように、しかめた顔をする俺。お互いに、そんな顔を見て、思わず笑いだす。
「まぁ、とりあえず、お互いベストを尽くすしかないけどな」
「そうだな……亮平も俺も、要に、いい報告できるように、頑張るしかない」
「ああ」
お互い、拳を軽く当てると、亮平は自分の教室へ戻っていく。俺も席へ戻ろうとして、一瞬振り返り、亮平の背中を見送る。
ずっと、俺にできないことを、やってのける亮平が、羨ましくて仕方がなかった。それでも、お前には負けないように、俺はできるだけの努力をするしかない。
席についてすぐ、騒めく教室の中へ、試験官が問題用紙を持って入って来た。
「問題を配ります」
俺は、負けない。
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