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4.甘くて、甘くて、苦いもの(12)

*** 「要……大事な話があるんだけど」  抱きしめてくれていた柊翔が離れていく。そして、柊翔の声で、その話が、けしていい話ではないことの予想がついてしまう。 「……大事な話?」  これ以上、傷つけられることに、俺は耐えられるだろうか。目の前の柊翔の真剣な眼差しに、きっと避けられないことなんだ、というのも、わかってしまって、緊張で身体が強張ってしまう。  フーッ、と、深く、深く、深呼吸する。 「どんな話」  手にしていたチョコレートの箱を、テーブルに置くと、柊翔の目を、俺ができる限り強く見つめた。どんな話でも、きっと、柊翔が一緒にいてくれるなら、大丈夫な気がしたから。 「要のバイト先の子、二年の境って、わかるよね」 「うん、オーナーの娘さんだよ。まぁ、俺とは、そんなにバイトは被らないけど」 「……そうなんだ」 「どうかしたの?」  困ったような柊翔の顔に、心配になって、二の腕のところを掴んでしまう。 「……彼女に、要と付き合ってるのか、聞かれたんだ」 「っ!?」  その言葉に息が止まる。 「……俺と似た男がいたよね」  続けざまに告げられたことに、胸の奥がツキンと痛くなる。中務さんのことだと、すぐにわかった。 「そいつに、言われてたことを、彼女が聞いたらしいんだ」 「……はぁっ」  だから、あの人のそばにいるのは嫌なんだ。あんな不用意な言葉。 「それに……あいつに、なんかされてるんじゃないの?」  柊翔の声が、不意に陰ったように聞こえた。  柊翔の拳が、ギュッと握りしめられる。 「か、揶揄われてるだけだよ?何もされてないし、あの人には、ちゃんと恋人もいるんだよ?」  柊翔が悔しそうな顔で、俺を見つめるから、思わず抱きしめてしまう。 「柊翔……本当に、大丈夫だから」 「ん……でも、やっぱ……嫌だ」 「……柊翔」 「他の誰かに、要が触れられてるとか、想像もしたくない」  柊翔の独占欲丸出しの言葉と、強く抱きしめかえされて、それだけで嬉しくなる。 「……肝心な話は、これからなんだ」  柊翔のくぐもった声が、俺の身体を震わす。 「彼女が、俺と要のことをネタに、俺と付き合えって」 「……まさか」  境先輩が、そんなことを言うなんて、想像できない。接点は多くないけど、そんなこと……。 「そうしないと……お前をゲイだって言いふらすって」  その言葉で、カクンと膝から力が抜けて、しゃがみこんでしまった。

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