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4.甘くて、甘くて、苦いもの(13)
「要……」
柊翔の心配そうな声がするけれど、呆然としている俺は、それに返事すらできない。
……そうか。
俺、傍から見たらゲイって思われるのか。
自分が別段、他の男を見たからって、何にも感じないし、むしろ、セクシーな女性を見たら、ドキドキだってする。だから、自分自身がゲイだっていう認識なんてなかった。
たまたま、俺は柊翔を好きになっただけで。
たまたま、柊翔が男だっただけで。
周りの人が、そんな俺を受け入れてくれていたから、単純にそれだけで済んでしまっていた。
「だからって、あの子と付き合うつもりはないし、彼女にもそう言った。要は弟みたいなものだって」
青ざめている俺のそばに座り、ジッっと見つめる柊翔。
……自分がゲイだって言われて、周囲の人に拒否されるよりも、柊翔が他のだれかとつきあってしまうことのほうが嫌だ。
「実際は、弟なんかじゃないけどな」
そんなの、わかってるよ。
柊翔の肩に額を乗せる。
「弟になんか、アンナコト、できない」
耳元で甘く囁く柊翔の声に、一気に身体中が熱くなる。
「それで、相談なんだ。」
真っ赤になった俺を、面白そうに見る柊翔。
「俺はもう卒業してしまうから、学校ではお前のそばにいてやれない」
柊翔の手が、俺の頬を撫でる。少し熱いその手に、思わず頬をよせてしまう。
「だから、その代わりに、朝倉か一宮を、お前の彼女ってことにできないかなって」
……は?
思わず、身体が固まる。
「……なんで、そういうことになるんですか?」
ゆっくりと柊翔の顔を見上げる。柊翔の困ったような笑みに、俺のほうは困惑するばかり。
だいたい、あの二人が、そんなこと許すわけない。冷静な一宮先輩は、軽く流すかもしれないけど、朝倉先輩のことを思うと……。
「こ、怖すぎます」
「大丈夫だと思うけどな。あいつらも、隠れ蓑になるし」
「……あんまり気にしてないと思いますけど」
実際、あの二人はいつでも、どこでも、ベタベタしてる気がするし、女子がベタベタしてたって、あんまり周囲はなんとも思わないんじゃないか?
「まぁ、男除けにもなるだろ?」
「どっちか片方しか、男除けになりませんよ?」
「あ……じゃあ、二股にでもするか?」
……ねぇ、柊翔。楽しんでませんか?柊翔の言葉が、全然、本気に思えなくなる。
「朝倉たちには、まだ話してない。俺と潤で話しただけ。だから、まだ決まった話じゃない」
柊翔はテーブルの上のチョコレートへと手を伸ばし、箱の包みを剥がしだした。
「でも、あいつらが、少しでも要を守ってくれるんだったら」
蓋をあけると、小さなチョコレートが並んでいる。
「俺も、卒業してから、心配しないですむ」
一粒つまむと、俺の唇に押し当てる。
「口、開けて」
素直に開けると、口の中に放り込まれたチョコレート。カリッとかむと、甘酸っぱいベリーの味が広がる。
「美味しい?」
指先に、少しだけ溶けたチョコレートを舐める柊翔に、目を奪われてしまう。
「……うん」
「俺の見える場所で、あいつらとイチャイチャされたら嫌だけど、卒業してからなら……我慢できる……かな」
そう言うと、柊翔の唇が、俺のそれへと優しく重ねる。軽く啄むように触れるたびに、自然と身体が柊翔にすり寄ってしまう。
口の中は甘い甘いチョコレートで充満しているのに、どこか苦く感じるのは、これからのことを考えてしまうせいかもしれない。
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