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5.始まりの季節(1)
柊翔がK大に合格したとのメッセージが届いたのと、同じタイミングで、亮平からも合格の連絡が来た。二人とも、同じ大学に通うことになるのか。昔みたいに、二人が仲良く歩いている姿を思い描こうとするけれど、どうしても、嘘っぽいイメージしか湧いてこない。
そして、そこには、俺はいない。
「やっぱ、鴻上先輩ってすげーな」
ヤスと佐合さんと一緒に、自分の席で昼飯を食べながら、柊翔の合格の話をした。
「うん。俺には無理だわ」
「そんなことないよ?獅子倉くんだって、頭いいじゃん」
「いや、さすがに、自分の実力はわかってるよ」
それに、K大に行く、ということよりも、そもそも大学への進学だって、できるとは思えない。
「いやいや、お前だったら、頑張ればいけんじゃねーの?」
そう言いながらも、佐合さんが作ってくるお弁当を、旨そうに食べる姿は、ちょっとムカツク。
「ん~、そう言ってもらえるのは、嫌な気はしないけどさ……」
俺が今朝、コンビニで買ってきたパンを口にしようとした時。
「獅子倉、ご指名~」
廊下側から声をかけられた。
俺のことを呼ぶのなんて、柊翔くらいしか思いつかなかったけど、今日は、学校に来ていない。実際はバレンタインデーからずっと、柊翔は学校に来ていない。たぶん、境さんと会わないため、なのかもしれない。
そう思いながら、チラリと廊下を見ると、そこには一宮先輩が立っていた。
「要くん」
ニコリと笑って、俺を手招きする。
……『要くん』?
何かあったのだろうか。それにしては、機嫌が良さそうに見えるけど。俺は慌てて一宮先輩のほうへと駆け寄る。
「……どうかしたんですか?」
俺よりもだいぶ小さい一宮先輩を見下ろしながら聞く。
「お昼、一緒に食べられないかなって、思って」
……?
というか、一宮先輩……何、かわい子ぶってるんですか?
思わず訝し気に見てる俺の腕を引っ張って、顔をよせる。
「彼女のフリ。始まってるのよ」
耳元の先輩の声は、さっきまでの甘い声とは真逆、とても冷ややかで違う意味でゾクッとする。
「あ、は、はい」
「じゃ、あっちで待ってるね」
階段のある廊下の突き当りのほうを指さすと、ニコッと笑って歩いてく。思わず、見送ってしまったけれど、置いてかれちゃったら意味がない。自分の席まで戻ると、机の上に広げてたパンをビニール袋に入れる。
「一宮先輩に呼ばれたから、行くわ」
「ん?ああ、いってら~」
「いってらっしゃい」
二人は、気にもせずに、手をヒラヒラさせて見送った。
ヤスたちにも、話をしておいたほうがいいんだろうか?と考えながら、廊下で合流した俺と一宮先輩は、そのまま、校舎の裏手の中庭に向かった。
そこは、木製のベンチが置かれていて、昼休みにけっこう人がいるところで、空いてる席なんか無さそうだったんだけど。
「遥っ!」
奥のほうのベンチで手を振って呼んでるのは、朝倉先輩だった。
「朝倉先輩もいたんですね」
少しだけ、ホッとしている俺。
「二人きりのほうがよかった?」
楽しそうに笑う一宮先輩。
「意地悪ですね」
拗ねたように言ってしまう自分に、なんだか照れくさくなる。そんな俺のことなんて気にせず、俺の腕をとって、朝倉先輩のところに駆け寄る。
……先輩、朝倉先輩の目が、俺の腕のあたりを睨んでて怖いです。
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