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5.始まりの季節(3)
「さて、どんな話?」
俺たち三人は、いつもの駅前にあるハンバーガー屋さんにいる。
目の前の二人は、興味津々な顔で俺を見つめてる。付き合ってるせいなのか、二人が似たような顔で俺を見てるのが、おかしくて、つい、笑い出しそうになる。
「何がおかしいんだよ」
ムッとした顔のヤスは、ポテトを数本まとめて口にほうりこむ。
「わりぃ、なんか、二人とも似てきたね」
そういうと、顔を見合わせた二人。顔を赤らめた佐合さんは、目の前のコーラのストローを口にした。
「だ、だから、お前の話を聞きにきたんだから、さっさとしろよっ」
……この二人、カワイイな、やっぱり。
ニヤニヤしながら、俺は一宮先輩と付き合ってるフリをすることになったいきさつを、簡単に話をした。ヤスも佐合さんも、そんなことになってるなんて、と憤っていたけれど、事を荒立てるよりは、という俺の言葉に、渋々ながら納得してくれた。
「でも、そうなると、あのステーキハウス、居づらいんじゃない?」
心配そうな佐合さん。
「うん……でも、このタイミングで辞めるのも、微妙だし」
「まぁ、境先輩の言葉に反応して、みたいで、余計に勘繰られるか」
「実際、そうなんだけどさ」
大きなため息をつきながら、ハンバーガーを大きな口で頬張る。
「やっぱ、辞め時なのかなぁ」
中務さんの相手するのも、疲れたし。
「あの仕事、面白かったんだけど」
また、違うバイトを探さないといけないかもしれないな。
駅で二人と別れると、電車に乗り込む。反対側のホームに、仲良く話している二人の姿が見える。俺の姿に気がついた佐合さんが、手を振る。つられるようにヤスも俺に気づいて、同じように手を振ってきた。二人みたいに、俺のことを受け入れる人のほうが珍しいんだってこと、忘れてしまいそうになる。
ホームの二人を見たせいなのか、一人で帰る電車が、いつにもまして寂しく感じてしまう。
最近だって、柊翔と一緒になることがなかったのに、今日は無性に寂しい。携帯を見て、柊翔に『これから帰る』とメッセージを送る。
きっと、今日は柊翔の家では、合格祝いでパーティでもやるのだろう。おばさんが、喜んでいる姿が目に浮かんで、思わず微笑んでしまう。帰りにケーキでも買って、俺も一人でお祝いしようか、と思いながら駅の改札を抜けると、柊翔が待っていた。
「あれ?待ってるって連絡くれましたっけ?」
慌てて自分の携帯を見るけど、既読がついてただけで返事はもらってない。
「たまたま予備校に合格の報告に行ってて。家に戻ろうとしたときに、メッセージに気が付いたんだ」
優しく微笑むと、俺の肩に手をよせる。
「……俺に言うことない?」
ん?という顔をして、俺を見つめる。
「あっ。合格おめでとう」
「うん。ありがとう」
すごく嬉しそうに微笑む柊翔に、俺もつられて笑顔になる。
「おばさんも大喜びだったんじゃないですか?」
「ああ、金食い虫めっ!とか言いながら、笑ってたよ」
「フフフ、おばさんの嬉しそうな顔、思い浮かびますよ」
「今日は、お前もうちに来いよ?母さんも待ってる」
「……いいんですか?」
こういう日は、家族水入らずのほうがいいんじゃないかって、思うんだけど。
「ああ、母さんには連絡済みだし、連れてこいって言われてるんだ」
そう言われると、断りづらい。
「じゃあ、夕ご飯だけ、お邪魔します。明日も学校だから」
「別に、うちに泊まってもいいのに」
柊翔はさらっと普通に言うけれど、俺の方が、そばにいたら、我慢できないもの。
「いや、自分の部屋で落ち着いて宿題やりたいし」
「なんだよ、俺が教えてやるのに」
「何言ってるんですか。受験終わったばっかの人が、教科書とか問題集とかみたくないでしょうが」
「ま、それもそうだけどさ」
並んで歩きながら見る柊翔は、スッキリした顔をしている。やっぱり、それなりにプレッシャーだったんだろう、というのが察することができた。
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