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5.始まりの季節(4)

 柊翔の家に着くと、おばさんが大喜びで迎えてくれた。  それは、やっぱり、柊翔の合格のニュースが、いつもよりもテンションをあげさせているせいもあるかもしれない。それにしても、かなり大はしゃぎで、なぜだか、柊翔よりも、俺の世話ばかりやきたがっている気がする。そのたびに、柊翔がなんだか、顔をしかめている気がするんだけど。自分がかまってもらえないから、おばさんにヤキモチでも妬いてるんだろうか? 「要くん、一人暮らしは、大丈夫?」  ふいに、心配そうに話しかけてきたおばさん。 「もう慣れました。もともと、一人でいる時間が長かったし」  できるだけ明るく微笑んでみせる。そうじゃなきゃ、今以上におばさんが心配するのが目に見えてるから。 「それに、たまに柊翔が顔見に来てくれるし……」 「……うちに来てもいいのよ?」  おばさんは、本当に優しい。 「どうせ、柊翔はいなくなるし」  ……え?いなくなる?  どういうことなのか、ピンと来ない。 「母さん、何言ってるんだよ。俺、家から通うよ?」  慌てておばさんに言う柊翔。 「何言ってるの、大学の一、二年の校舎が、めちゃくちゃ遠いの忘れたの?うちからじゃ、片道の通学にだって二時近く間はかかわるわよ?」  ……え。そうなの?  俺は柊翔の受験する大学までは聞いてたけど、校舎って、そんなに遠いところだったの? 「あんたは体力あるつもりかもしれないけど、通学時間がもったいないでしょう。あの大学だったら、近所に叔父さんの家もあるし、あそこから通わせてもらえばいいと思ってたのよ」 「叔父さん?」 「そう、何度か要くんも顔をあわせてたの覚えてない?弁護士をやってるのよ」  ああ、亮平との事件の時にお世話になった人か。うっすらとしか顔を覚えていない。 「母さん、俺は通えると思ってる。だから、叔父さんのところに世話になるつもりはないよ」 「通学費用だってバカにならないのよ。下手に一人暮らしさせるよりは安いといっても、叔父さんのところから通えば、もっと安くすむし」  なんだか、俺だけ一人、取り残された感じになってきている。 「あの……俺、とりあえず帰ります」  このままここにいるのも居た堪れなくて、俺が小さく言うと、二人が驚いたように振り向く。まったく、同じ表情で見るんだから。こんな状況なのに、思わず、微笑んでしまう。  そして、同じタイミングで言うんだ。 「ダメよ!」 「ダメだ!」  もう、この二人って、外見は全然似てないのに、ふいに見せるリアクションが同じなんだもの。やっぱり、親子なんだよな。 「ちゃんと、話し合ったほうがいいですよ。それには、俺がいたらダメでしょ」  俺はテーブルを離れてバックを持つと、玄関に向かった。

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