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5.始まりの季節(5)
「要、送るよ」
俺の後を追うようについてきた柊翔。
「何言ってるんですか。俺、一応男なんですけど」
呆れたように言うと、「そうだけど」とモゴモゴ言いながら、赤い顔をする。
「それより、ちゃんとおばさんと話をしてください。そろそろ、おじさんも」
いきなりガチャリと、玄関のドアが開く。
「ただい……おや、要くん来てたのか」
嬉しそうに微笑むおじさんに、俺もつられて微笑んでしまう。
「はい。おかえりなさい。もう帰るところです」
「なんだって。せっかく久しぶりに会えたのに」
「すみません、俺、宿題やってないのがあって」
「そんなの、うちでやれば?」
「肝心の教科書が家にあるんですよ」
本当は宿題なんてないけれど。そうでも言わないと、帰らせてもらえなそうだ。
「そうかぁ。それじゃあ仕方がないか」
「すみません、あ、それと、柊翔の大学合格、おめでとうございます!」
「ああ!ありがとう!まさか合格できるとは思ってなかったよ」
「え、親父、それ酷くない?」
ようやく、俺たちの会話に入ることができて、少しほっとしている柊翔。
「あはは。じゃあ、気を付けて帰るんだよ」
俺の肩に手を置くと、そのままリビングのほうに向かっていった。
「じゃ、俺、帰るんで。ちゃんと玄関の鍵締めたら、おじさんたちとしっかりと話をしてくださいね」
「……わかったよ」
「……はっきりしたら、教えてください」
つい、ギュッと柊翔の服を掴んでしまう。
「わかった」
しっかりと俺の目を見ると、俺の頬に軽くキスをした。
本当は、もっと一緒にいたい。
ドアを閉めて、鍵の音がするのを確認すると、ドアにゆっくりと寄りかかった。
壁の向こうに、まだ柊翔がいるのだろうか。それとも、すぐにリビングに戻って、おじさんたちと対決に挑んでいるのか。
でも、それを決めるのは柊翔で。俺は、そんな柊翔を応援するしかない。
「……あ。一宮先輩のこと、話し忘れた」
思い出したところで、あの場で話をするなんてことはできなかった。帰りの道すがらにでも、話せばよかったのに、ついつい、他の話で盛り上がってしまって。
嫌なことに目を向けたくなかったせいもあるかもしれない。
アパートに着いたら、連絡しよう、そう思うと、勢いよく、その場を離れた。
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