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5.始まりの季節(6)

 結局、その日のうちに柊翔からの連絡はなかった。  俺は俺で、短く、一宮先輩のことをメッセージを送ったけれど、既読すらついていない。何があったのか、心配で、不安になる。 「要くん、大丈夫?」  心配そうに見つめる一宮先輩と、朝倉先輩。  昼休みに、俺が二年の教室に向かうと、さっそく他の先輩たちから揶揄われることになった。そんな中、二人に助けられて、今、裏庭のベンチにいるのだけれど。 「す、すみません。ちょっと考え事してて」  できるだけ、明るく笑ったつもりだったけれど、二人には、なぜだか、バレバレで。 「無理しなくていいんだよ?私たちだったら、話聞くよ?」  すっかり、二人は俺の姉のような存在になってる気がする。風がまだ冷たいけれど、日向のここは、のんびりしてしまう。午後からの授業を考えると、少しだけ憂鬱になるけれど。 「本当に大丈夫です。それよりも、少しくらいは、境先輩のところまで、噂がいってますかね?」  チラッと二年の教室のある階を見上げる。 「どうかなぁ。まだ、二日目だし。でも、さっきので少しは行くかもね」 「先輩たちにも迷惑かけちゃって」 「いいって。私は私で楽しんでるし。それに、遥が、今まで以上に優しくしてくれるし」  なんか、いつも以上にベタベタしてる? 「あ、あの、それじゃ、あんまり意味がないんじゃ」  思わず、俺の方が照れるはめになる。 「……そうね。じゃあ、遼子、そっちからお願い」 「うふふ。はーい♪」  ニヤッと笑ったかと思ったら、俺の両頬に、二人がキスしてきたっ!? 「な、な、な、なにしてるんですかっ!」  思わず立ち上がって大きな声を出したのと、同時に、同じように周りでランチを取ってた人たちから叫び声があがる。  おおおおおおおおっー!  きゃぁぁぁっ!!!  高音、低音入り混じった叫び声……。  こ、こんなところで恥ずかしすぎるっ!、と立ち上がった俺の両手が掴まれて、再びベンチに座らされる。 「これで、少しは、噂の広まるスピードが速まるんじゃない?」  楽しそうに言う朝倉先輩。 「で、でも、これじゃっ」  一宮先輩が彼女っていう設定じゃ? 「三角関係?いや、両手に花ってことにしとけばいいのよ。だって、私と遼子は仲がいいし。これいくらいインパクト強くないと、あの子も引かないかもしれないわよ?」 「え?」 「彼女、テニス部でも、諦めの悪い子っていうので有名らしいから」 「諦めが悪い?」 「言い方が悪かったけど。どんな試合も、途中では放り出さないってことね。そういう子が相手だということ、覚えておいてね」  一瞬、冷たい顔をした一宮先輩。前より、境先輩のことが恐くなってきた。バイトの時とかでは、優しい先輩だったんだけどな。 「とにかく」  朝倉先輩はにこやかな顔で、今度は俺の腕に手を絡めてきた。 「一緒に写真撮るわよ」  そして、強引に身体をよせてきたかと思うと、二人の画像を撮った。 「あら。『私の要くん』なのよ」  今度は一宮先輩っ!? 「で、三人で~♪」  俺を真ん中に挟んで、二人はご機嫌な笑顔。 「あら~、いい感じに撮れたわね」  一宮先輩は、満足げに自分のスマホを見つめると、画面をいじっている。 「送信♪」 「……え?」  ニコリと笑ってスマホの画面を、俺に見せる。 「えぇぇぇぇぇっ!?」  ……相手は柊翔に送ってる。まだ、既読はついてない。 「せ、先輩っ、ちょっと、やめてくださいよっ」  慌てて、一宮先輩の腕をとると、「要くん、腕、痛い。」と、上目遣いで見られてしまった……。

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