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5.始まりの季節(8)

 授業が終わった頃、ようやく柊翔からのメッセージが来た。先輩たちとのことを言われるかと思ったら、ただ一言。 『電車に乗ったら、連絡くれ』  それは駅まで迎えに来てくれるということなんだろうか。そっけない言葉に、言いしれぬ不安感が湧き上がってくる。今までだって、似たようなメッセージをもらってきたというのに、昨日、あれから、おじさんたちとどんな話になったのかが心配で、余計に不安感を煽るのかもしれない。  とにかく、何か話があるから、駅まで来てくれるのだろう。  そう思うことにして、ヤスたちと一緒に校舎を出る。校門までの道を歩くと、テニスボールの音と、練習中の声が聞こえてきた。何気なく目線を向けると、テニスコートに端にいた境先輩に見られてたことに気づいた。俺のほうから軽く会釈をしたけれど、彼女は笑顔を見せるでもなく、視線をはずした。彼女は、何を考えているんだろう。俺は、モヤモヤしながらも、駅へと向かった。    柊翔の言葉通りに、電車に乗ってすぐにメッセージを送った。そして、すぐに既読がつく。その瞬間だけ、柊翔と繋がってるということを実感して、胸の中が温かくなる。  駅の改札につくと、いつも立っているところに柊翔の姿が見えた。すぐに駆け寄ろうとしたけれど、柊翔の横顔が、あまりにも厳しい表情をしていて、立ち止まってしまった。 「おっと」 「す、すみませんっ」  後ろから来たサラリーマンらしき人が、立ち止まった俺にぶつかってしまった。俺よりも大きい身体の男の人が、ちょっとムッとした顔で見下ろされて、思わず、びくついてしまう。まだ、怖いと感じてしまうことを再認識して、少しだけ気持ちが落ち込む。 「要」  俺の声に気づいた柊翔が、ゆっくりと歩いてきた。その表情は、さっきまでの表情とは違って、いつものように優しい笑顔。 「さぁ、帰ろう」  柊翔に背中を押され、俺たちは、アパートに向かって歩き始めた。

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