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5.始まりの季節(10)

 親父たちは、俺と要を離そうとしている。  俺にはそうとしか思えなかった。 「……親父たち、何勘違いしてるの。要は弟みたいに大事にしてるだけで……」 「あなた、自分が要くんのこと、どんな顔で見てるのか、自覚ないのねぇ」 「弟を見るような顔じゃないぞ」  なぜだか二人とも、クスクスと笑っている。俺は唖然として、二人を見つめるしかない。 「あなたは一生懸命隠そうとしてるつもりでも、私たちには隠しきれてないってこと」 「……まったく。うちの息子は、こんなにバレバレじゃ、これから先が思いやられるよ」  大きくため息をついた親父が、今度は、鋭い眼差しで俺を見つめた。 「要くんのことは、本気なんだろうな」  親父は、嘘は許さない、と言わんばかりに、睨みつけてくる。ここまで言われてしまって、俺はもう否定する気にならなかった。グッと両手を握りしめ、親父の目を見て答えた。 「……ああ、本気だよ」  俺は、何を言われたって、要のそばから離れる気はない。親父たちに何を言われたって。 「俺は、要のこと、愛してる。親父たちが反対したって、別れたりなんかしないからな」 「だったら」  お茶を一気に飲み干した親父。コトリとテーブルに湯呑を置いて、俺を鋭く睨みつけて言葉を続けた。 「叔父さんの家から通え」 「なんでっ」 「お前らが本気なら、二年くらい離れたって、別れたりしないだろ」 「そんなっ」 「一度、離れてみればいい。今は、お前が熱くなってるだけで、落ち着いたら、ダメだった、なんてこともあるだろう」 「俺は本気だよっ」  俺は親父の言葉に熱くなって、思わず立ち上がった。 「だったら、それを証明して見せろ」 「証明って。」 「二年、叔父さんところから通って、戻って来た時に、まだ、要くんのことが好きだと言うなら、仕方がない。二人のことは認めよう。」 「お父さんも、お母さんも、あなたのことも心配だけど、要くんのことも心配なのよ。万が一、また、あの子が傷つくようなことがあったら」 「俺は、要を傷つけたりなんかしないっ!」  ドン!とテーブルに、思い切り両手を振り下ろし、歯を食いしばる。 「別に二年間、まったく会えないわけじゃない」 「そうよ、時々、こっちにだって帰ってくればいいのよ。その時に要くんとも会えばいいの」 「……」 「ただ、少し冷却期間を持て、と言ってるんだ」 「それじゃ、要が一人ぼっちになるじゃないかっ」  俺がそばにいない間、誰が要を守るっていうんだ。要のことを守ることが出来るのは、俺だけだ。 「だから、あなたがいない間、要くんは、うちに住めばいいって言ってるの」  熱くなっている俺に対して、やれやれ、といった顔で、母親が言った。 「要くんを、一人になんかできるわけ、ないじゃないの。あの子は、うちのもう一人の息子みたいなものなのよ?」  ゆっくりと立ち上がりながら、テーブルの上の食器を片付けし始める母親。 「要くんだって、あなたがいるから、うちに来いって言っても、来ないんじゃないの」  まるで、俺が悪い、みたいに言いだした。確かに、最近、うちにあまり来なくなったのは、俺が要の部屋に行ってるせいだから、一概に否定できない。思わず、むぅ、と口ごもってしまう。 「だから、安心して、叔父さんのところから通いなさい」  母親が、ね?、と念を押すように、微笑んだ。

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