91 / 95
5.始まりの季節(11)
結局、親の説得に、何も返事もせずに、一日が過ぎていく。
これから先のこと、ちゃんと考えたら、うちの親に認められないままなんて、要のためにも、よくないのはわかってる。今のままでいられない。それは、俺も要も、環境がどんどん変わっていくのだから、仕方がない。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
ベッドに横になりながら、うだうだと考え事をしていたら、携帯にメッセージの着信音。
そういえば、朝倉たちはどうなったんだっけ。結局、そんな話もできないままになっていた。身体を起こしながら、背中を壁に預けると携帯の画面を開いた。
「……なんだ、これ」
目の前の画面には、要が朝倉と一宮にキスされてる画像が表示されていた。恥ずかしそうな要はカワイイけど、両サイドは必要ないぞっ!?
送ってきたのは潤。既読がついてすぐに、『モテモテだろ』とのメッセージ。
潤のヤツ、俺が要のことで心配して苛ついているのを見越して、メッセージ送ってきたな。
『とりあえず、始まったのはわかったけど、余計なことするな、って伝えとけ』
彼女たちにその気はなくても、要だって、男だ。悪い気はしないだろう。それに二人ともタイプは異なるけれど、かなり美人な類たぐいに入る。そんな考えが頭をよぎった瞬間、胸に小さな痛みが走る。
もしかしたら、俺が離れている間に、他のだれかに、それも女性に惹かれてしまうんじゃないかって。そんな恐怖が、湧いてくる。
「要……」
携帯を握りしめ、俯いた。
もしかして俺は、本来の要の幸せを、奪ってしまっているのか?
だけど、要の笑顔を思い浮かべると、今すぐにでも要を抱きしめたくなってしまう。要は俺だけのものだと叫びたくなる。
卒業式まで、そうあまり時間はない。
これからのことを、要とちゃんと話をしなくちゃいけない。大きくため息をつきながら、そう思った。
ともだちにシェアしよう!