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5.始まりの季節(12)

***  アパートまで、ずっと黙り込んでいる柊翔。せっかく笑顔の柊翔を見られたと思ったら、すぐに何か考え事をしているようで、口元が厳しく引き結ばれている。不安になって見ている俺のことに気が付かないくらい。  アパートに着いて玄関に入ったとたん、急に抱きしめてきた。 「ど、どうしたのっ!?」  そう聞いても、何も言わずに、ただ強く抱きしめるだけ。あまりに強く抱きしめるから、余計に不安になるのに。俺はただ、柊翔の背中を優しく撫でてやることしかできない。 「要」  耳元に聴こえる柊翔の声が、苦しそうで、これから発せられる言葉が、怖くて仕方がない。今まで聞いてきた中で、一番、怖いと感じている。 「……親父たちにバレた」 「……?」 「正確には、俺が要のことが好きだっていう気持ちがバレた」 「えっ!?」  嘘をつくわけないけれど、思わず、柊翔の顔を見てしてしまう。 「でも、たぶん、俺たちがつきあってることも、予想はしてると思う」 「ま、マジで?」  まさか、おじさんと、おばさんが、気づいたってこと?  そんな……もう、俺、あの家に行けない。  部屋の灯りをつけて、ベッドに並んで座る俺たち。コートも着たまま、俺たちは、しばらく言葉が出てこなかった。 「だから、叔父の家に行けって」 「……」  それって、やっぱり、反対してるってこと、だよな。……俺、おじさんたちに嫌われてしまったのかな。  そう思ったら、涙が溢れてきた。 「な、泣くなよ、俺が叔父の家に行ってる間、お前には、うちに来てほしいんだ」 「な、なんでっ!?」  嫌われてるのに、なんで? 「親父たちが、うちに来いって」 「だから、なんで?」 「……俺たちが、どれだけ本気か、試されてるんだ」  ベッドに置かれていた俺の手を、柊翔が握りしめた。 「親父たちは、ただ反対してるわけじゃない。むしろ、お前のこと、心配してるんだよ」 「心配?」 「ああ。息子の俺が、お前を傷つけるんじゃないかって」  握り締めた手を、口元に持って行く柊翔。手の甲を優しくキスされて、ドキッとする。 「俺が、お前を傷つけることなんて、できるわけないのに」  そんな切なそうな目で、見ないでくれ。 「……だから、俺がいない間、あの家にいてくれないか」  本当に、俺が、あの家にいてもいいんだろうか。  おじさんたちは、俺があの家にいるのは嫌じゃないのだろうか。  そんな考えばかりが、頭の中をぐるぐるとまわっている。 「俺の言葉じゃ足りないなら、親父たちと話すといい」  その言葉に、ビクッと身体が震えてしまう。  どんなことを言われるのか。  どんな顔をされるのか。  それを考えただけで、怖くなる。 「大丈夫だ。親父たちは、要の味方だから」 「……柊翔」  彼の肩に、寄りかかるように頭を乗せる。柊翔がそばにいなくなったら、俺は、ちゃんとやっていけるんだろうか。

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