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エピローグ(1)

「卒業おめでとうございます!」  卒業式を終えて、教室から出たところで俺と潤は、剣道部の後輩たちにつかまった。きゃぁきゃぁと甲高い声に辟易しながら、俺たちはなんとか校舎を出ることができた。校門のところに、要と一宮たちが楽しそうに話している姿が見える。  バレンタインデー以来、高校まで来ることがなかったから、境と会うこともなかったから、このままフェイドアウトできるかと思ったのだが。 「鴻上先輩」  彼女は、そう簡単に諦めてはくれないらしい。潤と二人、校門へと向かうところで声をかけてきた。 「卒業おめでとうございます」  そう言って、ニッコリ笑うと、小さな花束を渡してきた。その花束を受け取ると、「ありがとう」と言って俺たちはそばを通り抜けようとした。 「先輩、獅子倉くんに、言ったんですか」 「……大事な『弟』だからね。」  俺がここにいなくなってから、あいつが嫌な目に合う姿なんて見たくない。 「おかげで、うちのバイト、辞められて困ってるんですけど」 「……君みたいな子がいるところでなんて、バイトさせられないからね」  俺が冷ややかに答えると、完全に存在を忘れられていた潤が割り込んできた。 「え、獅子倉、バイト辞めちゃったのか?」 「ああ、お前、食いにいかなかったのか」 「遼子たちはいったみたいだけどな」  そう、要が辞める少し前に、一宮と朝倉がランチを食べに行ったらしい。思い切り、彼女モードで。 「一宮さんが、わざわざキッチンまでご挨拶にきてくれましたよ。『彼女』としてね」  忌々し気にいう境に、思わず、クスリと笑ってしまう。一宮のことだから、徹底的にやったんだろう。きっと、あの要にちょっかいを出してきていた男にも。 「……獅子倉くんをネタにしたら、付き合ってもらえると思ったのにな」  寂しそうな顔をして言われても、そんなことを考える時点で、却下だろ。 「お前、バカか?」  潤が、思い切りバカにした声で言った。 「そんなんで付き合ったって、楽しくも何ともないだろうが」 「それでもっ!」  薄らと目に涙をためて、潤に食って掛かる。 「私は鴻上先輩と付き合いたかったのっ」 「……お前の自己満足の相手に、なるつもなりないから」  このまま素通りさせてくれたら何も言わずに受け取ったのに。俺は手の中にある彼女からの小さな花束を、彼女の手へと差し戻す。 「……要に何かしたら、許さないからな。」  彼女に釘を刺すつもりで、睨みつける。そんな俺を見て、ビクリとする彼女。顔を伏せると、自分の花束を受け取りもせずに、猛ダッシュで去って行った。

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