4 / 5

4

 連れて来られたのは、人通りのない校舎へ続く踊り場だった。大飛はそこへ着くなり立ち止まって、円に向き直ると「悪い、いきなり」と申し訳なさそうに言った。  掴まれた腕が、少し震えている。 「あんた、もしかして月下美人の血筋……?」 「え!? なんで」  誰にも当てられた事がなかった自身の先祖を、一発で当てられてしまった。驚きを隠せない円を見た大飛は、さらに続ける。 「夜にしか咲かない植物特有の、きつめの甘い匂い。だいぶ薄まってたけど取れてなかったから」 「ごめん……俺、誘惑なんてするつもりじゃ」 「分かってる。俺は、その人がどういう気持ちで発した匂いなのか分かるから、あんたがその気じゃないって事は分かったよ」  大飛はそのまま、掴んでいた円の手を自身の両手で包み込むように握った。 「な、なに、やって……」 「俺は、草食性のオオコウモリの血筋なんだ。あんたの、コウモリ媒花である月下美人のフェロモンは、俺らには効果抜群なの」  この意味分かる? と大飛は誘うように言った。その怪しげな表情に、円はドキドキと心臓が高鳴って、目を逸らす。 「わ、分かんない……コウモリ媒花の植物なんて沢山あるだろ。俺じゃなくても、他にいくらでも……」 「他にも沢山いるのは知ってる。けど俺は……あんたが良い」 (……っ!)  ぶわりと、自分の匂いが発せられたのが分かった。恥ずかしい、恥ずかしい——嬉しい。そんな事、言われたのが初めてで。 (そんなふうに……言われたら)  顔が熱くて、それを隠そうとしたけれど手遅れだった。恥ずかしさと嬉しさで放ったフェロモンは、目の前の相手に効果抜群だったのだから。 「……ダメだよ? そんなふうに感情に任せてフェロモン放って。みんなにバレちゃうかも」 「あ、……ごめん、わざとじゃ」  わざとじゃない——そう言う前に、円の口は大飛の口によって塞がれてしまった。  

ともだちにシェアしよう!