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5 さよならの覚悟とスケッチブック3

「先日のようなことが起こって君に嫌な思いをさせないように、今までプライベートで関係のあった人間すべてを清算してきた」  画面には仕事関係と思われる人間の名前が社名や役職、部署付きで記載されてある。  スクロールされても、碧には全く意味が解らなかった。 「清算って、どういうことですか?」 「恋人だった人、恋人まで行かなくても親しい関係にあった人にね、きちんと別れを告げて連絡先を削除したという意味だ」 「どうしてそんなことをっ!」  そんな必要などなにもないのに、どうして。 「もう、碧くんに悲しい顔をさせたくないんだ。私が人付き合いを適当にしていたために君に嫌な思いをさせてしまって本当に申し訳なかった。これで謝罪になるかわからないが、また私と会ってもらえないだろうか」 「なんで? 僕のこと面倒に思ったんじゃないの?」  嫌になったから連絡してこなかったんだとばかり考えていた。面倒だからお見合いを断られるんだと思っていた。なのに、実際は逆の行動を取られ碧のほうがたじろいでしまう。 「そんなわけがない。むしろ、碧くんを悲しませた自分のいい加減さが嫌になった。正直に話すとね、私は今まで随分と適当な恋愛ばかりしてきたんだ。来るもの拒まずというか……その時に一緒にいてくれる人だったら誰でもよくて飽きたら連絡をしなくなるというやり方ばかりだった。けれど、碧くんとはそういう刹那な関係でいたくない。できることならずっと君の傍にいたい。だからこれからも週末を一緒に過ごさせて欲しい」 「わからない……どうして僕なの?」  いいかな?  訊かれてどう答えていいかわからなかった。  果たして自分にそれだけの価値があるかわからない。今まで彼の傍にいた人たちはきっと先日の女性のように、綺麗で一輝の隣に立っても見劣りしない人たちだろう。華やかで気の利いた会話ができ、周囲から笑われることもないのに。なぜそんな人たちを全部なくしてまで碧を選ぶのだろう。 「初めて会った日から、時間があるとすぐに碧くんのことを考えてしまうんだ。一緒にいて一番楽しいと思えるのは君だ。どうしてかなんて私にもわからない。ただどうしても君が欲しい」  明確な回答ではないのに、感情的なものだけなのに、不思議と碧の中にある不安が消えていく。 「君とした約束を叶えたいと思う。新しい約束をたくさんしたいと思う。これから先ずっと隣にいたい。そう思ってしまうのはダメかい?」  ダメじゃない。  むしろ碧が願っていた。  この綺麗で優しい人とずっといたいと祈っていた。  叶わない夢として諦めようとしていた。  手を伸ばされて嬉しいと感じてしまう。  また一緒の時間を過ごせることを喜んでしまう。  本当にいいのだろうか。  都合のいい夢じゃないだろうか。  他者を魅了して止まないこの人の隣にいていいのだろうか。  本心は諦めたくない。  伸ばされた手を取りたい。  取り柄のない碧を欲してくれるこの人に身を委ねてしまいたい。

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