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8 挨拶と婚姻届と悲しい現実5

 可愛いのに、愛おしいと思っているのに、なにもできない。  これを生殺しと言わずになんだというのだ。  だがこれもあと半年!  あと半年でこの可愛い子を一生美味しくいただけるのだ。  今は修行僧のように耐えるだけ。  下半身の変化に気付かれないように碧を離し、笑顔を向ける。 「ベッドは私と一緒でいいね、夫婦になるんだから」 「はい!」  満面の笑顔はやっぱりかわいい!  人間、萌えだけでは死なない。死にそうになっても本当に死ぬことはない。本懐を遂げるまでは!  着々と未来図を描いていく。  婚姻の日が決まれば結婚指輪選びだ。  絵を描くのに邪魔にならないようにとシンプルなものを、ハイジュエリーブランドを廻る。  こうやって一つ一つ、二人の手で作り上げていくのが家族になるということなのだろう。  碧と一緒に考える時間が長くなればそれだけ、距離が縮み心が近くなっていく。  よく結婚する恋人たちがこの作業でケンカして別れると聞いていたが、碧となら全く苦にならない。むしろ嬉しいし、一つ決まるごとにそれを当たり前とせず、毎回嬉しそうに笑いかけてくれるのだ。可愛く幸せな表情ばかりを見せられるから、自分の中の碧がどんどん可愛くなっていく。麻薬のように彼の笑顔が見たくて、自分のことよりも碧の気持ちを優先してしまう。  粛々と準備を進め、冬休みには様々なモデルルームをめぐり家のイメージを膨らませる。  そして正月は最後の家族だけの年明けを過ごさせようとじっとしていたが、三日で耐えきれなくなりまたデートに誘う体たらくぶりを披露してしまうのだった。  もう一輝の人生に碧がいないのが考えられない状態になっていた。  ただただ可愛い彼をベッドの中で慈しむことばかりを考えてしまう。  ダメだと自分を戒めても、妄想は止められない。  淡い桃色の唇を塞いだらどんな表情をするんだろう。  いつもきっちりと首元まで乱さない衣服を剥がし押し倒したらどうなるんだろう。  白い肌を貪ったらどんな反応をするだろう。  そして彼の中に己の物を収めた時の感触は……。  一人でいるとそんなことばかりを考えてしまう己のケダモノっぷりに嘆息しながら、だが一日でも早くその日が来るのを待ち望んでいる。  挙式の日取りも招待客も母親たちの采配で決まっているし、当日の服も勝手に決められてしまった。  着るものに興味のない碧は母親の言う通りの白いタキシードに納得していたが、一輝としてはウエディングドレスを着せたかった。こっそり碧の母に打診したが、一応男の子だからと毒のない笑顔であえなく却下された。

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