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9 診察と写真と悲しい結婚式1

「そろそろ薬の量を減らそう、碧くん」  月に一度の診療で小学校からずっと通っていた病院を訪れた碧は、ずっとお世話になっている気心の知れた医師の言葉にぱぁぁっと顔を輝かせた。 「本当に!?」 「もう身体もしっかりしてきたからね。突然やめると大変なことになるから、少しずつ減らして、半年後を目標に薬のいらない生活に戻ろうね」 「ありがとう、医師(せんせい)!」 「結婚おめでとう。あの小さかった碧くんがもう結婚する年になったんだね」 「えへへ」  苗字が変わった碧のカルテを感慨深く眺めながら、医師が穏やかな表情で頭を撫でてくる。 「今日の結果を書いた紙を用意するから旦那さんに渡しておくんだよ。この病気は家族の理解が一番大事だからね」 「はい!」  今まで一錠だった薬を今日から半錠にし、それを一か月続けるよう指示され、碧は嬉しそうに診察室を出た。 (一輝さんの言ったとおりだ)  病気はよくなると言い続けてくれた一輝と結婚した途端、改善の方向にいってるなんて、結婚した時と同じくらいの喜びだ。薬を飲まなくなれば、これからもっと好きなことができる。行きたいところにも行けるし飛行機だって乗れるかもしれない。そうすれば半年後の新婚旅行はどこにでも行けるようになる。  嬉しくてスキップしたくなるほど浮かれた碧に、実家からわざわざついてきてくれた執事が会計を済ませ薬を受け取っている。 「いかがでしたか、碧様」 「薬の量を減らしていいんだって。嬉しい」 「それはようございました」  ずっと菅原家を取りまとめている執事が、自分のことのように喜んでくれるのを見て、碧も喜びが増していく。 「ではこちらを天羽様にお渡しください」  渡された封筒と薬を鞄にしまい、乗り慣れた菅原家の車に乗り込む。  通院の日だが、一輝が仕事を抜け出すことができないため、実家に連絡をしてくれ、通院のためだけに来てもらったのだ。  菅原家を実家と呼ぶのがちょっと照れくさいなと思いながらも、久しぶりに会えるのが嬉しかった。 「天羽様との生活はいかがですか?」  優しい執事の言葉に、急に碧の顔が曇った。 「僕……上手くできてなくて……今日も目玉焼き焦がしちゃった」  新米主婦あるあるを聞いた執事と運転手は、碧に気付かれないように相好を崩した。 「せっかくお手伝いさんに教えてもらったのに、全然上手くいかないんだ」  料理だけじゃない。掃除も洗濯も、どうしてか自宅のようにはいかなくて落ち込んでしまうと漏らす。  碧の家事の後を執事と家政婦がフォローしまくったからだとわかっているのに、実家に仕える面々はそれを口にしない。 「勝手が違うのでしょう。新たな家政婦をそちらに派遣しましょうか」 「それじゃあ申し訳ないよ。僕主婦なのに……」

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