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9 診察と写真と悲しい結婚式2

「天羽様はなんとおっしゃってますか?」 「一輝さんは大丈夫とか美味しいとか、それしか言わないから。一輝さんは仕事で帰ってくるの遅いのに、一緒にやろうって頑張ってくれるから申し訳なくて」  本当なら自分が完璧に綺麗にした部屋で一輝を出迎え、美味しい料理でもてなして一日の疲れを癒して欲しいのに、実際は焦げてしまった料理を食べさせ、掃除まで一緒にさせてしまうほどの体たらくぶりだ。ワイシャツはとうとうクリーニング屋に任せようという結論になるしで落ち込んでしまう。 「では家事の先生を派遣しましょう」 「ごめんなさい……」 「謝ることはございません。では早速手配をし、明日からそちらに向かわせます」 「ありがとう。僕本当にダメだなぁ」 「新妻になられたばかりでいらっしゃるのですから、これから上達なさいます」  未だに実家に頼らなければ家の切り盛り一つ満足にできないのがもどかしい。  理想と現実とのギャップに落ち込みながら、マンションまで送ってもらう。  いつものように後部座席の扉を開ける執事に、またしばらく会えなくなるのかと少し寂しさを感じながら車を降りた。 「ではまた来月、お迎えに伺います」 「ありがとう」  自分がエントランスをくぐるまでは執事も運転手もそこを動かないとわかっているから、名残惜しいけれど別れを告げる。そして最上階にある一輝と二人で暮らす部屋に戻ると、流しに置きっぱなしにしていた嫁入り道具の焦げ跡の残るフライパンと格闘する。 「このIHのコンロがいけないのかな?」  実家のとは違うからきっと上手くいかないんだと思いながらも、もしガスコンロで失敗したらもう言い訳できない窮地に立たされている自分を恥じた。  結局今日も、焦げた目玉焼きと苦いコーヒーを出してしまったし、バケットもうまく切れなくていびつな形だった。上手くできたのは手でちぎって皿に盛るだけのサラダだけだ。  キッチンシンクに重ねた食器類を食洗機にいれ、スイッチを押すのだけは上達したが、家事をしている気にはなれない。  実家の家政婦のように手で洗ってみたら見事に割ってしまった過去を思い出す。 「あの時も一輝さんにフォローさせちゃった」 『碧くんが指を切って痛い思いをするくらいなら、文明の利器を活用しよう』  優しい言葉を思い出すと胸が締め付けられる。一輝は家事に不慣れな碧に怒りもしないし、どこまでも優しい。壊滅的な出来栄えの料理でも笑って食べてくれるから余計に情けなくなる。碧が人よりも上手にできることがあるとすれば、絵を描くことぐらいだが家事には全く役に立たない。  簡単に家を掃除して乾燥機にかけた服を取り出し畳んでいく。家政婦のようにきっちりできないが自分のできる精いっぱいをとにかくやってみる。

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