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9 診察と写真と悲しい結婚式5
項垂れたままの碧の髪を撫でる手はやっぱり優しい。仕事で疲れて帰ってくた一輝にまた気を使わせてしまった。家事もまともにできないのに気を使わせてばっかりだ。しかも、昔の写真で変な気持ちにまでなって、今も恋人がいるのではないかと疑ったりしてしまう自分が情けなかった。
こんなにも優しくしてもらっているのに。
涙ぐみ始めた碧に、一輝がキスをしてくれる。いつものように頬へ。
違う、あの写真のように唇にキスして欲しい。自分にもあんな風にして欲しい。だって写真の中の一輝がとても嬉しそうな顔をしていたから。碧だってあんな風に官能的な一輝を見てみたい。自分にキスをしてあんな表情をして欲しい。
でも恥ずかしくて口に出せない。
ただもやもやした気持ちだけが大きくなっていく。
写真を見てしまったことも口に出せず、一輝に肩を抱かれるままにマンションを出た。
「碧くんはなにが食べたい?」
「なんでもいいです」
「……今日は病院だったね。なにかあったの?」
「ううん、薬をね減らそうって言われました。病気もう良くなってきてるから半年かけて飲まなくてもいいようにしようって言われました」
「良かったじゃないか。半年後か……丁度新婚旅行の辺りだね。そうだ、新婚旅行先に希望はあるかい」
「特に……僕よくわからないから」
「では私の方で決めてしまうよ。任せてもらっていいかな?」
「お願いします……」
楽しい未来の話なのに、どうしても手放しには喜べない。
どうして?
何度も自分に訊いてみる。
一体どうしてここまで気持ちが沈んでしまうのだ。
一輝に恋人がいるのは当たり前だ。以前だって一輝の恋人に会ったことがあっただろう、とても綺麗な女の人に。だが一輝は自分の傍に戻ってきてくれた。それだけじゃない、その後に今まで関係のあった人たちと縁を切ったと知らせてくれたではないか。だから碧と結婚を前提の交際をしようと言ってくれ、今碧はその一輝の言葉通り結婚しているのに、なにが不安なのだ。
こんなにも優しい夫である一輝を相手に、どうして悲しい気持ちになってしまうのだろう。
わからない。
どうしていいのかも、自分の中をどう整理していいかもわからない。
でも、モヤモヤしたものが心の中をいっぱいにしている。
お洒落なレストランに連れて行ってもらい、大好きなパスタを口にしてもちっとも気持ちが晴れなかった。
翌日から執事が手配してくれた家事の先生について、一生懸命料理の仕方、掃除や洗濯の仕方を学びながらなんとか気を紛らわせるので精いっぱいだ。
そして迎えた結婚式、碧は式場側が用意した新婦の控室でぼんやりとしていた。女性のようにウエディングドレスや化粧が必要ないので白いタキシードを身に着け髪を整えればそれで終了だ。両親は来客の対応に追われ、ちょっと顔を覗かせるだけですぐにいなくなってしまった。
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