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9 診察と写真と悲しい結婚式6
なにをしていいかわからないまま、ただぼんやりとするしかなかった。
重い気持ちのまま。
「どうしたんだ、碧」
「兄さんたち」
そんな碧を気にしてか、兄たちが控室へとやってきた。
「結婚式だというのに、随分と暗い顔をしているな。天羽となにかあったのか?」
「なにかあったらすぐに言うんだよ。僕たちはどんな時だって碧の味方だ」
二人の兄が傍にいてくれる、それだけで碧は少し元気になった。いつも味噌っかすな自分に優しい兄たちにそっと胸の内を打ち明ける。
「一輝さんの昔の写真を見て……そこにね、女の人と裸で抱き合ったり唇にキスをする写真があったの……でも僕、そんなことしてもらったことない……」
勝手にポロポロと涙が零れてくる。
梗はハンカチで碧の涙を拭きながら苦々しい表情をし、玄は天を仰いで目元を覆った。
あの野郎、なんて写真を撮ってやがるんだぶっ殺すと心の中で大発狂しながら。
「どうして……僕にしてくれないんだろう……」
まさか最愛の末弟の口からこんな言葉を聞くことになると思わなかった兄たちは言葉を失う。
碧のために優しいことを言うべきか、それとも今は心を鬼にして一輝を悪者にすべきか。頭脳明晰な兄たちでも瞬時に判断できなかった。
「それは……どうしてだろうな。天羽くんはなにを考えているんだろうな」
玄は言明を避け、梗にパスした。
梗は逃げ出した兄を睨みつけ、だが小さい頃から声を出して泣くことのない我慢強く可愛い末弟のいじらしい涙に手を|拱《こまね》く。
「泣かなくてもいいんだよ、碧。もしそれが嫌だったら結婚式が終わったら帰っておいで。僕たちはいつでも碧が帰ってくるのを待っているからね」
「でも……」
「いいんだよ。天羽先輩に『実家に帰らせていただきます』って手紙を書置きして来ればいいんだ」
「そうなの?」
「そうだよ」
梗に抱きしめられ、なんとか涙を落ち着かせる。
もうすぐ式が始まってしまう。
泣いた跡を隠すために冷たいタオルをしばらく目元に乗せられた。
視界を塞がれた碧から離れた場所で兄たちがこそこそとどうするかを密談していたが、彼らとて結論を出すことはできなかった。
出来ればなにも知らないままでいて欲しいが、それで傷ついた碧も見たくない。だからと言って一輝にいい思いをさせるのも業腹だ。もういっそのこと番となった後に毒殺するかとまで言い始めた兄たちだった。
結婚式が始まり、まずは式場内にあるチャペルで、親族のみが参加した挙式が始まった。
父に手を取られながらバージンロードを歩く。十字架が掲げられた祭壇の前に一輝が待ってくれている。同じ白いタキシードを身に着けているのに、やっぱり一輝のほうが華やかだ。その姿にぽうっとなってしまう。
挙式定番の神への誓いを口にし、指輪を交換し誓いの証のキスを促された一輝はじっと碧の顔を見つめたが、いつものように頬へキスを落とした。
(あぁやっぱり……)
唇へのキスはしてもらえないんだ。
泣きそうになるのを必死で堪えた。
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