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10 マリッジブルーと初めてのキス1

 碧の様子がおかしい。  それは今日だけではない。随分前から笑わなくなった。  家事の家庭教師(そんなのがあるのも知らなかった)が付いた辺りから笑うことが少なくなったし、笑ってもどこか作り物っぽい。  家のことを淡々とこなし、徐々に上達しているし料理も最初のころに比べてぐっと上達しているのに嬉しそうではない。それどころか日に日に沈み込んでいる。  一輝も気になって平日に有給をあえて取り二人のやり取りを観察していたが、怖い先生なのかと思っていたらとても親切で丁寧な年配の先生だし、問題が起きているという状況ではない。念のため隠しカメラを設置し、碧の日常を観察してみたが変わったところはなかった。だがぼんやりとすることが多い。  マリッジブルーなのかと様子を見守っていたが結婚式の今日になっても碧の様子はおかしいままだ。  一体なにがあったのだろう。  気になって何度も訊いてみても作った笑顔を向けられるだけ、胸の内を明かしてくれず、二次会を終えてしまった。  親しい友人たちや部下が帰っていくのを見送り、ホテルのスタッフに案内され宿泊フロアの最上階へと辿り着いた。  スタッフが気を利かせてスイートルームを用意してくれたようだ。  中に入り、先に置いてくれた荷物からラフな洋服を取り出し着替える。  昼から始まった挙式から披露宴、それに二次会を一気にこなして気が付けばもうすっかり夜になっていた。まともに食事を摂ることのないまま今の時間になってしまった。時計を見れば間もなく碧の薬の時間だ。 「碧くん、なにか食べようか。このままだと薬を飲めないからね」 「はい……」  派手なタキシードを脱いでいつもの御曹司ルックに戻った碧の表情は精彩を欠いている。そう言えば式場でずっと二人の兄が一輝を睨みつけていたのを思い出す。もしかしたらなにか知っているのだろうか。だがあの二人に連絡を取り教えを乞うのはプライドが許せなかった。  どうしても自分の力で碧の気持ちを聞き出したい。  大人の簡単な恋愛ばかりを面白おかしく繰り返してきた一輝にとって、碧の気持ちを言葉を使わずに気付くのは超難関案件だ。恋愛マニュアルのような簡単な関係ばかりしか知らなかったから、彼のようなナイーブな相手は難しい。  だからと言って簡単に放り投げたりできないほどのめり込んでいた。  彼がなにを想いなにに悲しんでいるのかをどうしても知りたい。  マリッジブルーではなさそうだし、果たしてどうしたものか。  ルームサービスでまずは簡単な食事をすぐに持ってきてもらう。  すぐにサンドイッチが用意され、テーブルに並ぶ。

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