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10 マリッジブルーと初めてのキス2
「これを先に食べて薬を飲もう」
皿を差し出すと、碧はその一つを手に取り、両手で少しずつ口に入れていく。薄切りのパンを噛むために開いた唇を見つめる。
(やっぱりここにキスしたかったな……)
チャペルでの誓いのキスで一瞬躊躇ってしまった。
一度でもその唇を味わってしまえばその先にブレーキをかけるのが難しくなりはしないかと臆病風が吹き荒れた。
きっと柔らかく甘いだろう唇の感触を知って、その後解禁となる四か月後まで手を出さないでいる自信がない。絶対に押し倒してしまいそうになる。今だって唇を見るだけで疲れているのに……いや疲れているから余計に下半身がムラムラしてしまう。碧の身体の事も考えずに押し倒してしまいそうになる。
だが、性行為は禁止!
例え今日が結婚式でもダメ!
初めての夜は新婚旅行と自分に言い聞かせ、そっと碧の唇から目を離す。だが、目を逸らした先にあるのは大きなキングサイズのベッドだ。これはもうあんなことやこんなことをしなさいと言わんばかりではないか。
いやいや、ここが単にスイートルームだからであって深い意味はきっとなにもないしあっても困る!
一輝は夫として碧のことが心配だし、医師の指示に反してやってしまったあと碧が苦しんだり身体が変調するのは避けたい。
碧がサンドイッチを一つ食べきったのを見て、1/4錠になった薬を渡す。
来月にはこれが一日置きになり、再来月には二日置きとどんどん身体に与える量を減らすと医師からの指示書に書いてあった。
今、碧の身体の中はゆっくりとオメガ特有のホルモンが分泌され始めているのだろう。
もしかして彼の様子がおかしいのはそのせいか。薬を減らし始めた時期と合致するだけに、その可能性も拭えない。
だが、医師でも薬剤師でもない一輝には見極めるだけの材料がなかった。
本人に聞くしかないか。
他に注文したルームサービスが届き、遅くなった夕食を摂り始めた。
「今日はたくさんの人に会ったから疲れただろう。これを食べたら早く寝よう」
当たり障りのない話を振ってみても、いつものように「はい」とロボットのような返事だ。
心ここに在らずか。
なら攻め方を変えるしかない。
碧が先に寝ないように、早く食事を済ませ、先にシャワーを浴びる。彼にはゆっくり摂るよう言い残して。
素早く洗い終えバスルームから上がってから碧を促す。なにか思い悩んでいるような表情は変わらない。
一人になる時間を作らせ、出てきた彼にスキンシップを図った。
碧の濡れた髪をドライヤーで乾かし、櫛でなめらかな髪を整える。
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