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10 マリッジブルーと初めてのキス3
あとは寝るだけとなった彼とベッドの上で向き合った。
「碧くんは覚えているかな」
「なにをですか?」
「一年前の今日、お見合いの席で初めて会ったんだよ、私たちは」
「ぁ……」
「君と出会ってお付き合いをしたこの一年は、私にとってとても楽しくてかけがえのないものだ」
細い指にそっと触れる。
二人で選んだワンバゲット・ダイヤモンド・リングがそこに輝いている。
「二人で選んだこの指輪をやっと同じ指に付けることができたね」
指輪の上からキスをする。
「ぁ……」
「よく似合ってるよ、碧くん。これで名実ともに夫婦になれたね。これからの時間も、楽しくてかけがえのないものにしていこう。チャペルで誓っただろう、病める時も健やかなる時も愛し敬い慈しむと。あれは嘘ではないからね、私の本心だ。どんな時でもどんな状況でも君の傍にいると誓うよ。でもね、それよりももっと大切なことがあるんだ」
「な……んですか?」
碧の顔に不安が浮かぶ。
心配しなくていいと意味を込め頬をそっと撫でる。
「なんでも話し合うことだ。不安になってること、不満に思ってること、心配なこと嬉しいことをなんでも話すことが大事だ。夫婦になったからと言ってすぐになんでも判るわけじゃないからね。碧くんがなにを思っているのか、話してくれないか。君の話ならどんな時でも耳を傾けるから。私も、話すようにするよ」
じっと碧の目を見つめて話す。自分の真剣さが伝わるように。ゆっくりと言葉を選びながら。
「碧くんはなにを抱え込んでいるか、話してくれるか?」
指輪をそっと撫でる。
なんでも話してくれと懇願を込めて。
碧は泣きそうな顔になり、口を開いては諦めたように閉じた。だが一輝は急かさず碧が話してくれるのをじっと待っている。手を握りながら。
「ごめんなさい……」
絞り出した声は小さく儚い。
「リビングのチェストにある写真を勝手に見ちゃいました」
「写真?」
なんのだ?
変なものは残していないはずだし、デジタル化が進んだ今、紙媒体で残したいのは碧の寝顔くらいだ。だがまだそれを撮る心の余裕……いや、下半身の余裕がないし、撮ったとしても現像に行く時間もない。果たしてどんな写真だろう。
「今日二次会に来た人たちと撮った写真……」
二次会に来た面々を頭の中で思い浮かべる。
会社の部下、それに中高の友人たち。大学の友人とそれからサークルの仲間……。
サークル!
スマホやデジカメのデータではなく紙媒体で残っているものと言えばあれしかない。
一輝は一気に青ざめ、内心冷や汗をかきまくり言い訳を頭の中いっぱいに浮かべた。
アルファ主体のいわゆるヤリサーに所属していた一輝は、それは面白おかしく大学時代を過ごした。仲間もアルファが多くそこそこ自由に使える金を持っているため、ほぼ毎夜乱痴気騒ぎを起こしては、気に入った女の子(時には男も)を持ち帰って不純異(同)性交遊に耽っていた。その中で記念写真と称してスタジオを借りプロのカメラマンを呼んで、キワドイ写真を撮ってもらい遊んでいた時期があった。徐々に淫らなポーズになりそして終わった後は気に入った……以下略。
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