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10 マリッジブルーと初めてのキス4
どこにしまったかもすっかり忘れていた写真が、一番碧に見られたくなかった写真が彼の目に触れたというのか。
碧が引っ越してくるまでに絶対いの一番に処分しなければならなかったものだ。だがどこにしまったか以前に存在すら忘れていた写真に気付くことができなかった。
それ以外はちゃんと処分したのにと後悔してももう遅すぎた。
「碧くん、あれはその、あのっ」
人間、パニックになるとまともに言葉が出ないものだ。営業職の一輝であっても。
「一輝さんカッコいいから恋人がいないほうがおかしいし、皆綺麗な人たちで、だからそれはいいんです。写真の一輝さん若かったし……」
本当にいいのか!
もし碧に過去の男や女がいたら、確実に嫉妬して呪い殺している自信があるだけに、そこをスルーされるのは辛い。
だが過去を蒸し返されても辛い。恋人じゃない人たちともベッドでいろんなことをしていたのを責められたら、もうどうしようもない。
「ただ……」
「なんだい、なんでも言ってくれ」
「あのっ、どうして僕には唇を合わせたキスをしてくれないんですか?」
「ひぇっ?」
無意識に変な声が上がってしまう。
なにを言い出すんですかこの小悪魔さんは。
「恋人さんたちにはして……どうして僕にしてくれないんですか?」
「どうしてって……」
そんなことをしたら押し倒してしまいそうだからです、とは言えない。
キスだけ覚えてそのあとすべてお預けさせられるこっちの身になって欲しい。悶々としすぎて仕事に集中できないどころか、自分に課した戒めすらも破ってしまいそうだからだ。
今だってぎりぎりの理性でもって生きており、同じベッドで眠ってもなるべく碧から身体を離している状況だ。気付かれないように彼より後に寝て先に起きる生活で誤魔化しているのに。
さて、どんな言い訳をしよう。
頭をフルスロットルで回転させ、一番碧が納得してくれる内容を編み出す。
「今薬を減らしている段階だからね、あまり興奮させてはいけないんだ」
それっぽく言ってみるが碧はキョトンとするばかりだ。
「興奮するの?」
しますともーーーー!
少なくとも一輝は興奮しまくるだろう。
そしていとやんごとなき結果になってしまうはずだ。
「碧くんの身体のためなんだよ」
それ以外に一輝が我慢し続ける理由などないのだ。碧が誰よりも大事でなによりも最優先にしたいから今まで堪え続けているのだから。
「……しなかったらいいんだよね」
「いや、そういう意味じゃないからっ!」
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