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10 マリッジブルーと初めてのキス5
「もしかして、奥さんとはしないの? あれは恋人さんとだけなの?」
「それはない! むしろ奥さんと一番にしないといけないことだ」
「だったら……僕も一輝さんとしたい……だめ?」
首をかしげて訊ねてくる。
そんな可愛らしくおねだりされたら理性が持ちません……。
でもちょっとだけなら……舌を入れない軽いやつなら……。
一輝の淡く脆い理性が都合のいい言い訳を並べ始めた。興奮させてはいけないという言い訳を使ってしまったから、なるべく優しい、本当に触れるだけのキスをすれば大丈夫だ。
うん、大丈夫……大丈夫?
本当に大丈夫なのか自分!
だが最愛の人に潤んだ眼差しで強請られて断れるはずがない。
自分を落ち着かせるために深呼吸を繰り返し、大丈夫と思うタイミングを計った。頭を真っ白にし、下半身に意識を向けないようにする。よし、多分大丈夫。
「わかった。一度だけだよ」
碧の肩に手をかけ、ゆっくりと顔を近づけた。淡い桃色の唇に唇で触れる、ただそれだけ。なのに、その温かさと柔らかさに簡単に放すことができなくなってしまった。
想像していたよりもずっと心地よい唇を舐め尽くしたい衝動に駆られる。それだけじゃない、舌でこじ開けて唇の奥に隠れている赤い舌をも舐めとり、擦り合わせ口内を犯してしまいたい。その時、この可愛い妻はどんな声を上げるのだろう。驚いて拒絶するだろうか。それとももっととせがんでくるのだろうか。想像するだけではしたない下半身が疼き力を持ち始めてしまう。
これ以上したら本当に理性が持たない。
軽く啄んでから碧を驚かせないように、名残惜しい唇から身体を離す。
初めてのキスを体験した碧は、一輝が離れても目を閉じたままだ。長いまつ毛が目元に影を落とすから頬の赤みが強調される。
潤んだ瞳が開き、ふわふわとした雰囲気で一輝を見つめてくる。
「どうした?」
「キスって……気持ちいいんですね」
「そ……うだね」
引きつった笑顔を貼り付け、煽るようなことを言わないでくれと心の中で懇願しながら、元気になり始めた下半身に気付かれたくなくて、少し碧から距離を取る。
なのに、初めてのキスにふわふわした碧は切羽詰まった一輝に気付かないまま、夫のパジャマの袖を掴んだ。
「もう一回、して」
「え……でも…」
「だめ……ですか?」
目を潤ませながらのおねだりという一輝が絶対に断れない戦法で、可愛い妻が誘惑という大軍で攻め込んでくる。精鋭部隊の理性を総動員して防御しようとも打ち勝つことなどできるはずがない。
早々と白旗を上げた理性を前に、一輝本人もフラフラと甘い誘惑に誘い込まれてしまう。
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