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10 マリッジブルーと初めてのキス6
僅かに生き残っている理性がやめろと警告しても、もう抑止力にはならない。
キスだけ、キスだけだから。
言い訳ばかりが頭を駆けまわっていく。
「もう一回だけだよ」
「……やっぱり嫌です」
「えっ?」
ここにきての拒絶か?
ニンジンをぶら下げて思いっきり誘惑しておいて「やっぱり嫌」とはどういうことだ。一輝の本能が大暴動を起こしてしまう。逆にその気にさせておいて止めさせられたほうが辛い。それこそ本能が理性を鎮圧しかねない。
しかも、生き残っている理性はほんの僅かだ。
このままでは碧を押し倒してあんなことやこんなことをしてしまいそうだ。
一輝の心の葛藤など知らず、碧は淡い桃色の唇を近づけてくる。
「もう一回だけじゃなくて、いっぱいして欲しいです。いつも……」
一輝は理性たちから魂が抜けていくのを感じた。
まだ本能の暴動の方がましだった。
さっきよりも大軍となった誘惑が四方八方から攻め入り、もう逃げ場などない。しかも総大将の碧本人はそれがどれだけ凶悪なことを言っているかを全く自覚していない。ただ自分の気持ちに素直になっているだけだ。さっき一輝が言った『言葉で伝える』を忠実に守っているだけ。
なにもしない自信が皆無だ。
いや、逆に考えたらむしろいつもしたほうが良いのかもしれない。
そうすれば、手を繋ぐとか一緒にご飯を食べるとかの日常の一コマとして慣れ、感覚がマヒするかもしれない。キスに関してだけだが。
碧もまだ性的な興奮を抱いていないようだ。
ただ触れ合う感触が気持ちいいと感じているだけ。その先になにがあるのかを知らないから、他の女性たちにしていることを自分にもしてもらえたと喜んでいるだけだ。
可愛い妻からせっかくいただいた要望だ、120%にして叶えない夫なんてクズ同然だ。
そうとなったらもう一輝はかけていたブレーキをあっさりと解除した。
「私の奥さんのワガママは本当に可愛いね」
重ねるだけのキスを何度も繰り返す。ついでに服の上から碧の身体をまさぐった。いままでずっと我慢してきたことを少しだけ自分に許していく。
薄い肌の感触を確認し、肩甲骨の形を確かめる。
四ヶ月後にはこの尖った肩甲骨の形に添ってキスマークを付けていこう。背骨に沿って舐め上げてみよう。それまでは触るだけ。
碧は一輝が何度も唇を合わせ啄んでくる動きを真似してくる。それがキスの仕方だと覚えたのだろう。
なにも知らない可愛い妻は、一輝の教えたことだけがすべてと思ってしまうのだ。比較対象が存在しないから、一輝のすることを忠実にトレースしていく。
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