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10 マリッジブルーと初めてのキス8
結婚してよかったと本気で思いながら、いつもは憂鬱な月曜日なのに元気いっぱいに出社した。
なにせ、行ってきますのキスまでするようになったのだ。
それだけじゃない、おはようのキスとかありがとうのキスまで追加されている。
部下たちに挙式して浮かれたと思われたっていい。実際浮かれすぎておかしくなりそうだ。
自分のデスクについて、いつものようにスケジュールを確認していく。金曜日の段階では来客の予定がなかったのに、なぜか朝一に「重要な来客」との記載があり、会議室が一つ押さえられている。
「なんだこれは。私に来客とは誰だ?」
部下に訊ねてみても誰も知らないという。登録者を確認すると、なんと社長だ。
大至急内線で社長に確認しようとするがそれよりも早くに来客の到着が告げられた。事務の社員に会議室までの案内とお茶出しを頼み、一輝も不安を覚えながら大至急の仕事を片付けた後、タブレットを片手に会議室へと向かう。
会議室にいたのは予想外の人物だった。
「これは……お義兄さん方どんなご用事で」
座っていたのは玄と梗だった。しかも顔がありえないくらい険しくなっている。
「どんな用事だと? 我々がお前に用があるのは碧のことだけとわからないのか」
今までにないほどの威圧感を放ってくる。むしろアルファの戦闘オーラ全開だ。
「よくも僕たちの可愛い碧を泣かせてくれたね。しかも随分と卑猥な写真を見せたんだって?」
すぐに合点がいき、言い訳をする。
「いや、あれは事故です。むしろ存在を忘れていました!」
「その存在を忘れたもののせいで碧は結婚式の控室で泣いたわけか……どう責任を取るつもりだ」
「もう碧くんに対しては責任を取りました!」
キスを解禁するという形で、だが。
それを口にしたらこの兄たちに殺されかねない。オーラがもう殺す一色になっている。
「どうやって?」
「それは……」
「もしかして、キスしたとか言わないよね」
「どうなんだ、天羽。当然していないよな」
「……しました、すみません!」
「「なんだとーーーーー!」」
兄たちの怒号が社内に響き渡った。
「キスだけです、しかもバードオンリーです!」
「そんな言い訳が通じるか! お前な、うちの碧に何してんだ」
「泣かせただけでも重罪なのに、キスまでするなんて……よくも僕の碧を汚したな、死刑だ!」
「死刑でもいいです、もっと色々させてもらいます!」
「なんだとー!」
「私は夫なのだから当然の権利です!」
アルファの攻撃オーラが三人分になる。
そうなるともう誰も会議室に近づけなくなってしまった。謝罪なのに怒鳴る部長の声に部下たちはひたすら怯えるしかない。
中が一体どうなっているのか、誰もわからず、ひたすら三人分の怒鳴り声が社内に響き渡り、社長が出て止めるまでそれは続くのだった。
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