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11 休日と病気と可愛いおねだり2
今度の週末は人物画を取り扱った作品展に行きたいとおねだりしてみよう。一輝が疲れていなければ、だが。
ついでにクローゼットから勝手に拝借した一輝の服も戻し、何事もなかったように夕食の準備をする。と言っても電子レンジで温めるだけだが。
今日も遅いのだろうか。
出かけるときにはなるべく早く帰ってくると言っていたが、繁忙期にそれを守らせるのは酷だとわかっている。だから少し寂しくはあるが、我慢して一輝の帰りを待つ。
今日は薬の日だから、早く帰って来るのかな。
碧は薬の管理を、以前は執事に任せ、今は一輝に委ねている状態だ。自分でしてしまうとどうしても忘れがちになると言われ、飲み忘れないようにするには、スケジュールを機械で教えてくれる一輝に委ねるしかなかった。しかも今は二日置きという半端な間隔になっているから、余計難しくなっている。
「ただいま……」
疲れた声が玄関からやってきた。
「お帰りなさいっ!」
碧は慌てて玄関まで出迎える。
無理して帰ってきてくれたのだろう、疲労の色が全身にまとわりついている。
心配になるが、それでも一輝が早く帰ってきてくれたのが嬉しくて飛びついた。
「お仕事お疲れさまでした」
一輝に靴を脱ぐ間も与えず目を閉じ顔を唇を差し出す。
今では習慣となったお帰りのキスのおねだりだ。
「ただいま」
笑みを含んだ声の後に優しい感触が欲しい場所に落ちてくる。
結婚式の夜に知ったキスの感触が碧は大好きになっていた。息が触れるくすぐったさも、一輝の唇の柔らかさも、どれもが甘くて胸がギュッと締め付けられた後、フワフワした幸せな気持ちになる。一度知ってから、一輝が傍にいるといつもして欲しくなるのだ。ドキドキよりも、ただひたすら幸せだけを味わえるから。
そんな碧に一輝はいつでも応えてくれるのも嬉しい。
キスをするたびに本当に夫婦になれたんだと実感しては、また舞い上がって踊りだしたくなる。
奥さんという甘い言葉が胸をくすぐってくる。
「もう夕飯の準備ができてます」
「良かった……もうお腹が空いて倒れそうだ」
今日習ったばかりの料理が並べられたテーブルに最後の仕上げとご飯をよそい、汁物を置く。
一輝が着替えをするのを待って一緒に食べ始めた。
二人だけの食卓だが、それでも実家にいたころは一人で食べることが多かったから嬉しい。ただ、今日なにがあったかを訊かれるのが少し辛い。碧の毎日にそれほど代わり映えがないからだ。
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