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11 休日と病気と可愛いおねだり3
今日も家庭教師に料理を習い、絵を描いて終わっただけだから、特筆すべき出来事がなにもない。しいて言えば、茄子の素揚げができるようになったくらいか。
「揚げ物もできるようになったなんて、凄いじゃないか」
たったそれだけなのに、こちらが照れてしまうほど一輝は褒めてくれる。
「でもほとんど先生にやってもらいました」
「油が跳ねたら怖いからね。先生と一緒でも出来たのはすごいと思うよ」
小さなことでも褒められるから次も頑張ろうという気持ちになる。そして話題に挙げればそれを食べてくれ、美味しいと言ってもらえるのも嬉しい。だから結婚式の日までひたすら落ち込んでいたことなどもうすっかり忘れてしまっていた。あの写真のことも。
食べ終わった食器を食洗器に入れ、薬を飲んで風呂に入り終われば、後は二人だけの穏やかな時間の始まりだ。
疲れている一輝がソファに座りながら持ち帰った資料を読んでいる横で、一輝に貰った画集の一冊をめくりながら張り付く。身体のどこかが触れ合っていればそれで満たされる。本当はギュッと抱き着きたいのだが、仕事の邪魔をしてはいけないとそれだけは我慢する。終わったら一輝から抱きしめてくれるから、その時間が来るのをひたすら隣で待ち続ける。
色々なキャンペーン資料をめくりながら、時折一輝が髪を撫でながら微笑みかけてくる。たくさん喋らなくてもそれだけで碧は幸せに満たされるのだった。
「お待たせ、待たせて申し訳ない」
それを合図に一輝が唇にキスをしてくれる。
碧は途中だろうが気に入った絵のページだろうが、その言葉で本を閉じテーブルに置くと彼の膝に乗り、首に手を回す。そこからはキスの時間だ。
碧が満足するまでたくさんキスをしてもらう。
だが七月に入ってから少しずつこのキスの時間で身体の奥がむずむずとするようになった。
内側からくすぐられるような感覚を覚えてしまうのだ。どうしてだろう。くすぐったくて腰をうねらせたくなる。それを我慢しながら大好きなキスの時間を堪能する。
一輝の唇を啄んでは少しだけ離し、もう一度触れる。その繰り返し。
大好きな人の体温を感じるだけで心が満たされていく瞬間だ。
「今度の週末、どこに行こうか」
週末が近くなると一輝がいつも訊いてくる。碧の希望を優先してくれるのが嬉しい。
「人物画の絵が見たいです」
「わかった、探しておくね」
「ありがとうございます。一輝さん大好き」
ありがとうのキスをして、また眠くなるその瞬間までひたすら一輝の唇を貪った。
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